私は婚約者と婚約したくありません!
大好きっ子
第1話
「痛ててて…………」
目を覚ますと、アレ?ってなった。
確か私は階段から転げ落ちて頭を思いっきり打ったはず……………意識が目覚めたし、無事って事なんだろうけど、ここ何処?
明らかに周りが豪華だ。親切な富豪に助けられた?
でも、なんか体に違和感…………あと、服装も変わってる?もしかして………勝手に脱がされた………!?いやっ、もしかしたら女性なのかも知れないしね?うん。でも着せられてるものが男物……………というか下半身に違和感…………
少しズボンの中に手を入れ、自身の体を弄ると、女性ならまず付いていないモノがあった。
うーん、これは………………チ○○ですね!
○ン○!まごうことなき○○コですわこれ!!
うーん…………私は確かに女性として生きた記憶があるんだけどなぁ…………
周りを見渡してみると、1人で寝るには大きすぎるベッド。
中に何が入っているのか知らないクローゼット。
豪華に飾られた鏡と椅子。
明らかに庶民では出来ないような部屋…………そして、私は男になっている。これはつまり……………人体実験!?
もしそうなら、他にも何か変わっているのかもしれない。ちょっと鏡で顔でも見てみようかな?
ベッドからゆったりと出て、鏡の方へテクテクと歩く。それにしても……………目線が高いなぁ?以前よりもなんとなく、視線が高くなってるように思う。これも人体実験の影響かな?身長が伸びたとか?
鏡を覗き込む。そうすると、女子なら10人中10人が見惚れそうな程のイケメンが居た。
え?誰これ?私?マ?
そんなことを思っていると、記憶が濁流のように流れ込んでくる。
そうだ………思い出した…………私は、王子だ。この、ユリス王国の、第一王子…………
キュリズ・ユリスだ…………頭が痛い。情報が多すぎて、体がグラグラとしてくる。気持ち悪い…………
コンコン
そんな時に扉からノックの音が聞こえた。誰か来たのだろうが、今はとりあえず横になりたい。
「若様?いらっしゃいますか?」
返事はしない。出来ない。
フラフラとした足取りでベッドへと向かい、倒れ込むように寝転んだ。それと同時に、声の張本人が扉を開け、やって来た。
「若様?………若様!?どうされたのですか!?お顔が真っ青ですよ!?
毒………?誰が………?とりあえず水を持って来ます!どうか、安静にしといてください!!」
そう言い、扉を開けて水を取りに出て行く。
ええっと、彼の名前は何だったかな?……………記憶が混濁し、よく分からなくなり、私は意識を、闇に潜り込ませた。
「うう…………………」
「お目覚めですか?若様」
「うっ…………ああ………ボタン?」
「おや?その名で呼ばれるのは珍しい。ええ、ボタンですよ。いつもは爺やと呼ばれるはずですが………?」
俺のすぐそばにいる人…………ボタンは、私の執事らしい。いつもは爺や呼びをしているらしいが、ボタンだという確証が無かったので名前で呼んだ。間違ってはいないけど…………この記憶が間違っていてほしかった。いや、私の存在そのものが間違いなのだろうか?分からない。分からないが………………兎に角今は、頭の整理を………………
「若様…………?」
おっと、そう言えばボタンが…………爺やがすぐそこにいるんだった…………
「ああ、すまない。えっと……なんだって?」
「ええと………水は要りますか?」
「ああ、頼む」
そう言うと、コップに水を注いでくれる。私が今ちょうど欲していた量をすんなりと出せる辺り、爺やの力量が凄まじいことがわかる。
「ああ、あと、キラズ様がお見舞いに来ております。通しますか?」
「うえっ……………」
王子、それも第一王子となると後継が必要だ。なので、早い段階で婚約者をあてがわれる。
相手は、公爵令嬢のキラズ・バランという方。特にこれと言った悪評は無く、むしろ良い評価の方が多い。
そこらへんの貴族よりよっぽど賢く頭が回り、武芸もそこそこに嗜んでいる文武両道な存在。
非の打ち所がなく、嫌味を言われても、それを真摯に受け止め改善しようする程、心が清らかでいる。正直、凡夫な第一王子とは釣り合わないレベルのチート令嬢だ。
だが、明確な弱点がある。
それは、第一王子の存在。
彼女は第一王子を愛してやまない。溺愛していると言っても良い程に。
そして、だからこそ、第一王子はあまり公爵令嬢を好んでいなかった。これぐらいかな?
まだまだ記憶はあるけど…………膨大だし、一旦置いておこう。
「うえぇ…………キラズが来てんのかぁ…………今は無理って言っといて………」
「またですか…………分かりました。そう言っておきますが………婚約者なのですから、親睦は深めないといけませんよ?」
「分かってるよ………そのうちね………」
「また逃げるのが目に見えますな…………」
「良いんだよ、はぁ…………とりあえず、下がってくれ」
「畏まりました。キラズ様とのお話、考えておくのですよ………?」
「ああ、もうっ!分かったって!」
パタンと、音を限りなく立てないように扉が閉められる。
体と心にどっと疲労が押し寄せて来る。
私はまだ、なんの整理も出来ていないし、ここがどこなのかも分からない。爺やとの会話も即興でしか無く、さっさと下がるように言う他なかった。
私ではない私を演じるのは中々にキツイな………
とりあえず、私であり私ではない記憶を見ていこう。
………なるほどなるほど?………………ふむふむ……………へー……………ほえー………………
なるほどねぇ?まぁ爺やとの会話中にも記憶は覗いてたし、特段驚くようなことはなかったかな?
とりあえず、ここは、ユリス王国と言う名前の国。あとここは、地球ではないっぽい。そもそも地球に王国ってあるのかな?まぁあるのかもしれないけど…………あと日本語。なんでなんだろうね?まぁ別に言語はどうでも良いや。
この世界は中世っぽい雰囲気の世界で、よくある異世界ファンタジーみたいに魔法が使える…………わけではない。本当に中世って感じで、剣とかはあるけど、それぐらいって感じらしい。
魔法とかは全部、御伽話でしかなく、私達は使えないらしい。チェッ…………
そして、私の婚約者である公爵令嬢、キラズ・バラン。文武両道の天才な人。
前の私は…………王子サマは、彼女の事を避けていたらしい。うーんとこれは……………劣等感?
自分は顔以外、秀でたものが無い。だから、彼女とは釣り合わない。ってわけね………
ふーん。まぁ、あんな天才チーター公爵令嬢と一緒に居れば劣等感の一つや二つや三つや四つぐらい、手に入れることができるでしょうね。
と言ってもそれは昔の話。今の私は劣等感を抱いているわけでは無い。だから、避ける理由は無い。ならなんで私が彼女を拒否した理由は2つある。
1つは本来の王子サマを演じる為。
さっきも爺やのことをボタンって言ったせいで訝しまれたし、実際の王子サマならこうするだろうって感じの理由が1割。
もう一つ、2つ目の理由は、私が元女性だからだ。この理由が全体の9割を占める。
私の前世は女性だ。だから、女性と恋愛はしたくないのだ。
ああ、でも、じぇんだー………だっけ?何か、性別の平等が云々かんぬんだとか………………まぁよく覚えてないし、この世界にそんなものがあるわけないしね。私は体が男でも女性と恋愛したくない。だから、彼女を避けるのだ。
顔は可愛いし、偶に会うぐらいなら問題無いけどね。頻繁には会えないけど、ほんのちょっとだけ会う頻度を増やそうかな?
そうすれば、急な心変わりじゃなくて後継ぎの為に渋々……………って言い訳出来るし、そう見られる。だからこれで良い。多分。
私は婚約者と婚約したくありません! 大好きっ子 @Daisukikko
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