無自覚に飯テロと性癖破壊テロを繰り返す聖女様の処女が勃起(♂)したら私が死ぬ
🔰ドロミーズ☆魚住
明日死ぬと思って食べなさい 。永遠に生きると思って食べなさい(1/4)
「……死にたい……」
自分の部屋を真っ暗にして昼まで寝ていた僕はそんな無意味な言葉を吐き出す。
ベッドの上で、無気力にもぞもぞと蠢いては寝る前に投げ捨てていたスマホを手にとり、今現在の時刻が平日の13時であるという事を知る。
今の季節が学校があまり忙しくない春の3月であるとはいえ、無断欠席は当然ながら学校の成績に関わってくるのだろう。
だけど、どうでもよかった。
本当に、そんなものは、もうどうでもよかった。
「……死んで、消えて、いなくなりたい……」
今日も今日とて無断欠席を決め込んだ僕はまたもや無意味でしかない独り言を口にして、ここ最近で何度目になるか分からない溜め息を吐き出す。
自分1人しかいない溜め息で満ちた空間というものは予想以上に気が滅入る。
僕は他にもやらないといけない事がまだまだたくさんあるというのに、現実逃避をしたいが為に朝を寝過ごして、学校をサボって、昼まで寝て、生を貪って、貴重で有限な寿命を無駄にしていた。
まさにダメ人間の生活。
僕の事を知っている人間であるならば、誰もが想像できないような堕落っぷり。
「……後片付けだけはしないと。この家はもう僕の家じゃなくなるんだから」
動きたくないという本能を責任感で無理やりに動かした僕はもう何日も食事をしていない所為で生意気にも空腹を覚えている気怠げな身体を叩き起こす。
僕は部屋の電気をつけないまま、スマホの光を頼りに自室の机の上に散らばっている紙の資料をクリアファイルに入れるだけという作業をする事にした。
――相続税申告書。
――死体埋火葬許可証交付申請書。
――死亡診断書。
――死体検案書。
――確定申告書。
僕の唯一無二の肉親である姉である
目の前にある紙を破りたくなる衝動を抑え込もうとして、抑え込められなかった僕は姉の死を否定するように紙を両手で引き裂いてしまう。
「……何やってるんだ、僕。こんな無駄な事して姉さんが生き返る訳が……」
僕、
そう、死んだ。
それも彼女の誕生日の当日に、大好きな姉は死んで消えていなくなった。
もうこの世界のどこにも、彼女はいない。
いる方が、おかしい。
「……後で市役所に行って、姉さんが死んだ証明書を再発行して貰わないと……」
だって、何かを悔やんだりしていても、誰かを恨んだりしても、何をしたとしても、姉は絶対に生き返らない。
不幸中の幸いと言うべきか、姉の葬儀だとか色々な手続きのおかげで将来どうすればいいのかを考える事さえが出来ないぐらいに忙しくて、文字通りに忙殺された僕は自分の未来の事について深く考える必要性が無かった。
そういう意味では、幸せだった。
だけど、いざ考えられる時間を与えられてしまうと、自分の頭で落ち着いて考え事が出来るようになってしまうと、今度は自分が迷子になってしまったかのようなどうしようもない不安が胸から湧いては僕を襲ってくる。
これからどう生きていくのかいう直視せざるを得ない不安がじわりじわりと、首を真綿で絞めるように、落ち込む僕の心情を無視して一方的に襲いかかって来て、姉と同じように死にたいという思考にしか考えられなくさせる。
「
両親は僕が3歳の時……12年も前に殺人事件で殺されたし、頼れる親戚なんてこの世のどこにも存在しないし、お世話になった孤児院の院長先生も天寿を迎えて死んでいなくなった。
だから、僕は姉と一緒に生きてきた。
だけど、もう姉はこの世界にいない。
この3月を過ごし終えれば僕は晴れて高校2年生であり、その気になれば高校を辞めて1人で生きていくことだって出来なくはない年齢だ。
だが金銭的な蓄えは心もとないし、今通っている学校を辞めてどこかで働いて生きていけるとも思えない。
このアパートから出てどこかの施設にお世話になるというのも選択肢の1つとしてあるが……いや、それ以外の選択肢なんて最初から存在しないのだけど。
「……さっさと退学届を書いて働かないと……」
――働くと言っても、どこで?
高卒どころか中卒の僕を拾ってくれるような職場なんてこの現代日本に果たしてあるのだろうか。
いや、探せばいくつかあるかもしれないけれど、傲慢にも中卒なんかになる訳がないという未来の見通しが甘かった僕には生憎とそういう知識に欠けていた。
――そもそも、どうして働くの?
生きる気力もない癖に、死にたがっている癖に、どうして生きる為にやる行いである労働を?
お先真っ暗な未来の身の振り方とどうしようもない矛盾に頭を悩ませると、僕の腹の虫が盛大にお腹が空いたと自己主張してくる。
まるでこれから先の未来を考えるなと言わんばかりのこの飢えを、僕がまだ生きているという証明を無視して何も食べないで餓死してしまえば楽になれるのではないかと思い至るものの、僕は弱々しく頭を振った。
「……健康でいてくれ、ってお願いされたしね……」
姉が自分に対していつも言ってくれた言葉を、もう二度と聞けない言葉を、本人も意図せずに最後に遺したであろう言葉に呪われた僕は自分の部屋から出て、食事を作って食べる為だけのキッチンにへと向かった、が。
「……くさい……」
視線の先にあるまな板の上には、切りかけの食材と包丁があった。
それらは姉が交通事故に遭ってしまったという連絡を受けた時のあの日のままに散らばっていて、まな板の上にある食材に至っては死体に群がるような虫たちで溢れかえっていて、食欲を物の見事にかき消してしまうほどの汚臭を放っていた。
「……1週間近く放置していたら、当然だよね……」
あの日の事を、忘れられる訳がない。
僕がたった1人の家族である姉の誕生日を祝う為だけに料理を作っていた矢先に、姉は交通事故に遭ってしまって死んでしまったという連絡を受けた僕は調理の途中だっていうのに、鍵をかける事さえも忘れて姉が搬送されたという病院に一直線に飛んでいった。
もしも、あの時に火を使っていたら……と思うとぞっとする。
僕は火元の確認すらも忘れて家から飛び出た訳なのだから、このアパートを火災事故に遭わせて多大な損害賠償を請求されていたと思うと実に肝が冷える話だけど、それだけ僕は姉の事が心配だった。
「……馬鹿だよね、僕。即死なんだから、急いだところで姉さんの生死が変わる訳ないっていうのに、さ」
思えば、姉が死んだ日からまともな食事を採った記憶がない。
冷蔵庫の中にはまだまだ食材はあるのだろうけれど、それらを使って料理をしようだなんて気になれる筈もなく、誰にでも簡単に作れるカップラーメンを作ろうという気概さえ湧いてこない。
だけど、何かを食べないといけないと、まだ生きていたいのだと、まだまだ死にたくないのだと、自分の身体が必死に愚かにも訴えている。
どうして明日を生きる為の食事をしないといけないのだろう。
今の僕には明日を生きる気力が微塵もないっていうのに。
だけど、何かを食べないといけない。
本当は食べたくないのだけど、食べないと死んでしまうから食べないといけない。
健康でいてくれ、と願われたのだから、僕には食べる以外の選択肢が残されていなかったのだ。
「……取り敢えず、冷蔵庫の中にまだ使えそうな食材があるかどうかだけ確認するかな……」
僕は渋々この数日間使っていなかった冷蔵庫の戸を開けて――無意識的に記憶から消していた爆弾を発見してしまう。
賞味期限が1日程度のケーキ。
姉が大好きだった生クリームをふんだんに使用した苺のショートケーキ。
サプライズという名目で僕が勝手に作って、誰も食べなかった誕生日ケーキが、誰にも食べられなかった状態のままでそこにあって、どうしようもない吐き気が襲ってきて、反射的に口を掌で覆い隠す。
「……さい、あく……」
僕は姉がもうどこにもいないという現実を直視するのが
このまま放置していたら誰かがこのケーキを食べてくれるのではないのか、と淡い希望のようなものを抱いていたのだが、そんな事が起こる筈もない。
人間が死んでいくように、ケーキも当たり前のように腐っていく。
作った当初は綺麗であったはずの姉の好物たちも、腐敗が進んだ所為で見る影もない。
姉に食べさせる筈の料理を自分が食べるという発想は湧いて出たけれども、姉が死んでから食欲は湧かなかった。
ついでに、明日も生きていこうという気概も湧いて出てこなかった。
姉に食べてもらう為だけに用意した料理が無駄になってしまって、このままじゃ姉に食べ物は大切にしなさいと怒られてしまいそうで。
「……怒られるよなぁ、怒られたいなぁ、もう怒られないんだなぁ……」
だけど、厳しくも優しかった姉に怒られる事は二度とない。
そんな当たり前の事を思うと、目元がどうしようもないほどに熱くなって、口からは勝手に乾いた笑みがこぼれ出て、次第にその笑みが嗚咽にへと変わっていく。
あぁ、なんて情けない。
いくら僕がこうしても姉が生きて帰ってくる筈がないって厭になるほどに自覚しているのに、僕は心のどこかで大好きな姉が帰ってくると信じているんだ。
死んだ人間が蘇る筈がないという事を、僕は両親を通じて知っている癖に、今まで親しい人間が何人も死んでいったというのにまだまだ人の死に慣れていない僕は現実を見れていない。
「……もしも、あの日」
姉が交通事故に遭っていなくて。
僕は姉が帰ってくる瞬間を玄関先で今か今かと待って、姉が家の扉を開けた瞬間に大量に買っておいたクラッカーを鳴らせていたら。
唯一無二の家族と一緒に食事が出来ていたのなら。
来年以降も祝える筈の姉の誕生日を祝えていたら。
「……?」
――そんな、絶対に起こりもしないであろう『もしも』を夢見た瞬間だった。
がちゃり、と。
鍵を持っていない人間でしか開けない筈であろう音が、玄関先から聞こえてきた。
「ねえ、さん? 和奏姉さん⁉ おかえ――」
反射的に姉の名前を口にして、僕は自分を殴ってやりたい衝動に駆られた。
普通に考えて、死んだ人が蘇る筈がない。
蘇る筈がないからこそ、僕は失意のどん底に陥ってしまう程に落ち込んでいた。
であれば、先ほどの物音の正体は一体何だと言うのか?
「……不審者?」
そんな可能性を口にした瞬間、僕の身体はとんでもないほどの寒気に包まれた。
もしかしたら、これは死んだ人間の名前を葬儀場で確認して、死んだ人間の情報を集めるだけ集めて、死んだ人間の住居に忍び込むという一種の火事場泥棒というヤツなのではないのか?
そんな起こって欲しくない『もしも』を想像した瞬間、扉が開かれる音が僕の耳に否応なしに入ってきた。
「ひっ……⁉」
当たり前の話になるけれど、この現代社会において扉が勝手に開かれるだなんていう怪奇現象は起こらないし、ここの賃貸住宅の扉は自動で開け閉めされるようにも出来ていないし、合い鍵を渡せるぐらいに親しい人物なんてもうこの世には何処にもいない。
誰かがこの一室に無断で侵入してきたのは、明白だった。
「ど、どうすれば……⁉」
恐怖の感情を一方的に叩きつけられてきた僕は頭の中が真っ白になっていたのだが、その誰かが玄関の扉が閉めた音を聞いた事で皮肉にも我を取り戻す。
僕は若干戸惑いながらも、腐った食材が乗っているまな板の近くで放り捨てられていた包丁をお守りのように胸の中で抱えて、自分の存在を不審者に感知されないように息を殺して、部屋の隅に隠れる。
いくら人を傷つけられる包丁を持っていたとしても、それを人に向けるのは当然怖いし、人を傷つけようとして人に傷つけられるのも当然ながら嫌だ。
だから、僕は何も起こってほしくないと願うしかなかった。
だけど、僕の願いに反して、リビングの扉が開かれた。
「――胃が、痛い」
僕がいるリビングの扉が開け放たれるのと同時に、そんな言葉が聞こえてきた。
聞いていても分かるぐらい本当に胃が痛そうな声で、聞いているこちら側も胃が痛くなってしまいそうな声色だった。
だけど、僕には聞いたことがない人の声だったものだから、その声の所為で却って緊張感が増していく。
「チャイムをいくら鳴らしても反応がないから合鍵で入ったが……酷い有り様だな。あの口うるさい
何だかとても偉そうな、尊厳と気品を感じさせるような声だった。
だけれどもそれは前半部分の内容であって、途中から何処にでもいるような女の子の声にへと変貌していった。
それにしても本当に胃が痛そうな声を出すものだったから、聞いている僕までもが胃がキリキリと痛みだしそうになってくるな……と、気配と息を殺して包丁を握りしめている僕はそんな感想を浮かべてさえいた。
「あ。……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「……?」
「……うぉえ」
先ほどまで物凄い饒舌であった筈の声からいきなりそんな言葉にもならないような一種の悲鳴のようなものが聞こえてきて、僕の背筋が本能的に引き締まる。
何故だろうと考えるまでもなく、答えは勝手にやってきた。
「ぉうえええええええっっっ!!!」
「吐いたァ⁉」
僕は反射的に包丁を投げ捨てて、近くにあったティッシュペーパーを大量に取り出して、滝のように流れ出るゲロを放出しているのであろう人間の傍にまでやってきた。
男らしい口調で喋っていて、低い声だったから今まで断言できなかったけれど、僕の目の前でゲロを吐いているのは僕と同年代ぐらいの少女であった。
しかも、とんでもないレベルの美少女で、そんな人がとんでもないレベルのゲロを吐き出していた。
「おえっ、おえぇぇぇ……! く……! イギリスから直帰してすぐに来たから、久しぶりの日本食を機内で食べた所為で……うぷっ……おろろろろろろろ……! だってイギリスの食事って味気が無くて……おっ、うっく……ぉうえええ……!」
女性の経験が疎い自分でも分かるぐらいに引き締まった体型はモデル顔負けという言葉が本当に相応しくて、そんな神々しいまでに均整の取れた美しい身体を有する彼女の唇はふんわりとした弾力のある桃色でとても魅力的なのだが、そこから物凄く汚いゲロが勢い良く吐き出されていた。
「ちょっ!? だ、大丈夫ですか!? というか誰ですか貴女!?」
そして彼女は純粋な日本人でないからか、ついつい見惚れてしまう程の美しい金髪の持ち主で、一目見ただけでも彼女のロングストレートの髪はちゃんと毎日手入れをしているのが分かるレベルで輝いていたのだが、その美しい金髪に黄色いゲロが付着している。
黒い喪服のようなコートと、色白な肌に、金色の髪の光に、冷たく輝く蒼い瞳。
それらが相まって、まるで異国の姫のような雰囲気を醸し出している彼女から女の子特有の良い匂いとゲロ特有の酸っぱい臭いをぷんぷんさせてくる。
――端的に言えば。
彼女はゲロを吐いてさえいなければ、迷わずに一目惚れしてしまっていたのではないかと思うレベルの美人で。
そんな彼女は、汚い吐瀉物にまみれながらも、そんな汚物をかき消すぐらいに輝かしいほどに全力で生きていた。
「あぁ大丈おろろろろおろろ……失敬。君があの
「汚いから無理して話さないでくださいっ! 吐瀉物が喉に詰まって窒息して死にますよ⁉」
「……おぇ……おぅ……あっ……息……できな……死……死んじゃう……た……す……けて……あ……和奏……わかな、が……さんずのかわで……てを……ふってる……ふふ……あいたかったぁ……そうしき……いけなくて……ごめん、ね……?」
「本当に喉に詰まって死にかけてるじゃありませんかこの人――ッ⁉」
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