第2話 ゲンデと話しあい

 さて、扉を開けて1Kのベースルームに入った僕ら。


 半畳程の玄関から中を覗きこんだら……壁紙が白を基調とした日本の某有名ハウスメーカーのモデルハウスのようで、想定したマンションと一致して安心して声を上げたんだけどね。


 「おおー!やっぱり綺麗じゃん」


 「ええええ!!此処、一体なんなんですかぁあ!」


 ゲンデにとっては未知の世界だったらしく、隣で混乱し出したから、落ち着かせるよりも慣れさせる事にした僕。


 「うん、ゲンデ。まずは靴を脱ごう。それで部屋にあがろう」


 「はああ?貴族の貴方が靴を人前で脱ぐなんて……!」


 「もう貴族じゃないし。ハイハイ、良いから良いから」


 正直、狭い玄関で男2人でいるよりも、サッサと部屋の中に入ってくつろぎたいんだよね。


 渋るゲンデを促して靴を脱ぎフローリングに上がると、右にキッチン左にトイレと洗面脱衣所兼浴室がある。


 奥の扉が寝室かな?


 「おおー、結構広い〜!」


 ガチャっと廊下の先の扉を開けると、10畳くらいのフローリングにロフトがある。ちょっと登ってみてみると、僕が立てるくらいの3畳の空間になってたんだ。


 あ、此処僕の寝室にしよ。


 「ディゼル様……これは一体……というよりも、貴方はどなたですか…?」


 僕がワクワクしながら内覧をしていたら、やっと寝室に顔を出したゲンデ。


 まずはゲンデの不安を無くす事が必要かな?


 「うん、ゲンデ。全部話すよ。だけど、全部話し終わるまで黙って聞いて欲しい」


 真剣な表情に変わった僕がゲンデの方を向くと、何かを察して決意したかのようにゆっくり頷くゲンデ。


 二人でフローリングに座り込み、ゆっくり僕は話し出したんだ。


 僕はディゼルであってディゼルではない事。


 前世の記憶が蘇りアラタの意識がディゼルの身体にいる事。


 前世はこの世界ではない、異世界にいた事。


 ディゼルの記憶は無くなっていない事。

 

 記憶が蘇り、僕の世界にあったものがスキルになっていた事がわかって、スキルが発現した事……


「……というわけで、僕はこのディゼルの身体だけど、今後はアラタとして呼んで欲しい。此処まで話して、信じられない事は多いだろうけど、もうこうなったらゲンデは仲間になってもらうしかないんだ。一方的に決めてごめんね」


 僕が話し終わるまで、忍耐強く聞いてくれたゲンデ。色々消化しようとしてくれているのだろう。頭を抱えているが、その格好のまま、ゲンデは僕に目を合わせてくる。


 「……では、ディゼル様にアラタ様が憑依したという事で良いですね?ディゼル様が戻る可能性は?」


 「ごめん。感覚だけどディゼルの意識は僕の中にはない」


 「では、此処にいるのはアラタ様という、全く別世界で育った人物という事でよろしいですか?」


 「そうなるね。……やっぱり受け入れられない?」


 「………いえ、この場合は幸運としか言い様がありません。ディゼル様のままであれば、逃げてもどこにも居場所はなかった事でしょう。……アラタ様だからこそ、スキルは発現しただろうし、これからやりようがあります」


 そう言って身体ごと向き直して、俺に頭を下げてくるゲンデ。


 「改めまして……私、ゲンデを貴方様の従者として仕えさせて下さい」


 ゲンデの真剣な表情に心の中で頷くけど……


 「えっとね、ヤダ」


 「えぇ!なんで……?」


 僕の即答に狼狽えるゲンデ。うん、ごめんよ。僕の望みは違うんだ。


 「従者はいらない。仲間が欲しい。だから一緒にいるならゲンデは敬語禁止!」


 「っ!………わかり、わかった。じゃ、これなら一緒にいて良いか?」


 「それなら勿論!それに、正直言って僕の身体だと、料理や掃除がし辛いんだよ。だから役割としてゲンデには、料理や掃除お願いするけどいいかな?」


 「そりゃ、当然だ。無駄飯食いはしたくないしな」


 「よし、なら改めてアラタとして宜しく!」


 「ああ、頼む!」


 僕が手を伸ばして握手を求めると、それに手を重ねて握り返してくれたゲンデ。


 いい場面の中、僕が思った事はこっちにも握手の習慣あったんだな、という気の抜けたものだった。


 そして本題の僕のスキルに話す先が向かった訳だけど……


 「実際、アラタのおかげで住まいはなんとかなりそうだ。で、水や食料はどうする?俺が行って狩ってくるか?」


 そういえば水周りの確認してなかったなぁ……と考えた僕は、ゲンデを連れてキッチンに向かい蛇口をひねる。


 ジャアアアアア……!と勢いよく出る水。手に乗せて飲んでみても普通に飲める。というか美味しい水だったんだ。


 これには目を丸くするゲンデ。


 「は?なんで?水の魔石でも組み込まれているのか?」


 辺りをチェックしながら、不思議そうに水の確認をしている。


 「ゲンデー、お風呂も入れそうだよ。あ、そうだ!トイレも水洗トイレだった。使ったらレバーを引いて流してねー」


 僕にとっては「あ、使えた」程度の感動でも、ゲンデにとっては摩訶不思議。


 しばらくなぜ?どうして?と言いながら水やお湯を出して確認してたなぁ。


 それにもう一つ、水やお湯を使っても全く止まる気配はない。考えても無駄だろうなぁと渇いた笑いをする僕の前では、トイレにいたく感動したゲンデ。


 「アラタ!このトイレは素晴らしい!匂いもなく清潔で貴重な水をこのように使うとは……!」と喜んでいた。


 僕としても嬉しいけど流石に次の検証に行きたい為に、ゲンデにはちょっと止まってもらう事にしたんだ。


 「ああ、はしゃいで悪かった。それで検証とは?」


 「うん、今後の食料問題についてかな」


 「水がこんなに沢山あるんだ。なら外に行って魔獣でもキノコでも木ノ実でも取りに行けばいいだろう?」


 さも当然のように言うゲンデに、僕はもう一つ気になるスキルを使う事にした。


 「あのね、もしかするとそう言う事もしなくて済むかもしれないんだ」


 「は?」


 「まあ、見てて」


 僕はステータスをもう一度出し設備を見る。


[設備]

 ・オートロック MP10,000

 ・宅配ボックス MP20,000


 魔力は50,000残っている……今日のところはまず宅配ボックスの確認をしたい……!


 宅配ボックスをタップすると、スウっと玄関脇に現れた長方形の宅配ボックス。


 蓋を開けると蓋の部分に液晶画面がついていて、一つだけあるボタンを押すとこの指示が出てきた。


『魔力登録をします。所有者は指を画面につけて下さい』


「この場合は僕だよね?」


「アラタ以外にいないだろ?」


 間抜けな質問をして指を画面につけると、画面が一瞬光りそして『認証完了』の文字が表示された。


 そして待望の内容が出た時には思わず僕は叫んでしまっていた。


 「やったよ!ゲンデ!やっぱりだ!」


 「……?すうぱあまあけっと?ってなんだ?下にもまだあるな……?」


 僕が思わずゲンデに抱きつくと、ゲンデも文字を読み出して首を傾げている。


 因みに出てきたのはコレ!


『 大型スーパーマーケット MP80,000

  ドラッグストア    MP50,000

  家具・寝具      MP60,000

  電化製品       MP90,000 

  コンビニ       MP15,000   』


 欲しいもの、必要なものが買える!!のはいいけど……


 現在僕のMPは、30,000/100,000。コンビニ一択なんだよね……


 ともかくゲンデに見せる為にコンビニをタップ。


 すると……


「ゲンデ〜!!!やった!やったよ!危険な事しなくても良い!この部屋だけで完結する!!!」


「は?え?どう言う事です?」


 余りにもわからなすぎて敬語に戻っているゲンデに、嬉しすぎて変な踊りを踊り出す僕。


 ゲンデにガシッと腕を掴まれて「説明を要求する」と睨まれてしまったけどね。


 「あ、ごめんごめん!じゃ、論より証拠だね!」


 ウキウキとコンビニをタップすると商品情報一覧が出てきて僕のテンションは上がる!


 (えーと、まずは下着とか欲しいけど……食べものはお弁当にして、ペットボトルとトイレットペーパーと……)


 今の僕のMPは15,000しかない。厳選して選んだのが……


 カツ丼×2 MP1,200

 お茶(ペットボトル)×2 MP296

 フェイスタオル×2 MP560

 バスタオル×2 MP2,560

 パンツ(L/LL)×各サイズ1 MP1576

 歯ブラシトラベルセット×2 MP750

 シャンプー詰め合わせトラベルセット MP621


 合計MP7563。


 僕的には、お風呂は入りたいし、タオルは毛布代わりなるし、食料は必須だし、歯磨き大事だしと思ったんだけどさ。


「どこの王族だ……」とゲンデに頭を抱えられた。


 うん、常識大事だね。


 という事で、しばらくここに逗留しながら色々模索する事にしたんだ。


 明日はまず、僕のMPが戻っているのかを確認する事にして食べ始めたら、ゲンデが勢いよく食べて僕の分をじー……と物欲しそうにするから隠して食べたけどさ。


 黙って見られるのもなんだしと、ゲンデに先にシャワーとお風呂入って貰ったら……


「俺が間違っていた……!」


 と何故か謝られて、更にいかに気持ち良かったかを熱弁された。


 ハイハイと流しながら聞いていると、なんでか説教が始まったんだけど、なんとか逃れてお風呂に向かい、僕が上がってきた頃には「んが〜……」といびきをかいて寝ていたゲンデ。


 (お前、慣れるの早すぎだろ……)


 そう思いつつも、今日はいっぱいありすぎて僕も疲れたし、ロフトの上で寝ようと上に上がる。


 タオルを枕にして横になるとぐっすり寝れた僕。

 意外に現世の僕は図太いらしい。


 ーーー翌朝、ロフトの存在を知らなかったゲンデに怒られたけどね。いや、失敗失敗。

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