マンションスキルがあるので廃籍されても構いません
風と空
第1話 廃籍されたらしい
ゴトゴトゴトゴト……
……なんだろう?すごく揺れるなぁ。
僕が目を覚ましたのは、どうやら移動中の馬車の中。
(ん?馬車?車じゃなくて?)
自分の感じた事が信じられなくて、ガバッと起きて窓の外をみてみると見えたのは緑、緑、緑。
そして自分の身体を見てみると、いつもの見慣れた手ではなく少年のような手。
服も中世の頃の服にそっくりな物を着ていた。
そして頭の中で自分が何者かもわかっている。って事は……
(んー……コレはやっぱり異世界転生ってやつかなぁ?)
そう、こんななりをしているが、僕は藤泉 新《フジイズミ アラタ》享年29だった筈なんだ。
因みに享年っていうのは、自分が死んだ事がわかっているからだね。
端的にいうと、信号無視の車に横断歩道中の俺は飛ばされたのを覚えているから。
あ、コレ死んだって思った直後に、自分の身体がどこかにぶつかり変な音がして意識なくなったのまで覚えているんだ。
だけど、蓋を開けたら僕はディゼル・グリードになっていた。
意識はアラタの僕のままで、記憶はディゼルのものがきっちり残っている。
記憶によると、ディゼルは騎士の名門家系三男に生まれたらしい。
三男という事もあって、元々期待はされていなかったディゼル。更に13歳になると授かるスキルが、これまた役立たずのスキルだった為に、問答無用で両親から廃籍されたらしいんだ。
因みに授かったスキルは【マンション】。
……確かにアラタの知識がないとわからない。それにディゼルでは発動しなかったからなぁ。
ゴトゴト……ガタンッ!
アレ?止まった?
キイッと扉を開けて姿を現したのは、済まなそうに僕の顔を見る御者の男。一応言葉はディゼルの話し方にしておくか……
「ディゼル様、降りて下さい」
「……目的地に着いたのか?」
「いえ、むしろそこに着いたら俺がディゼル様を殺さなきゃいけない……!俺は殺しをしたくないし、殺されたくもない!だったら、馬車を転落させて事故死に見せかけた方がマシです!ここからは歩いて隣の街まで行きましょう!」
……御者の男はお人よしらしい。一人で逃げる手段もあるのになぁ……
そう思ったらついふっと笑ってしまったんだ。
「ディゼル様、笑い事じゃありません!急いでください!」
「悪い、ちょっと気が緩んだ」
「………っ⁉︎ ディゼル様が謝った……?」
御者の男は僕が謝った事に驚愕の表情をしていた。それもそうかぁ。ディゼル威勢だけは良かったからなぁ。
少し遠い目をしている僕を胡乱げに見る御者の男。
この男なら巻き込んでいいかなぁ?僕の事を逃そうとするくらいだし……
でもその前に現状をもっと把握させておこうか。
「悪かった、改めて名前を聞いてもいいか?」
「俺ですか?ゲンデと申します」
「ゲンデか……なあ、ゲンデ。馬車を崖から落としたとしても、あの父上が万が一の事を仕込んでいないと思うか?」
そう、僕の現世の父親は非情で冷静だ。常に先に手を打っているのは予想できる。
ディゼルに眠り薬を飲ませて、そのまま屋敷からうむを言わさず殺してしまおうとする男。万が一の事を考えて、ゲンデやディゼルが逃げた場合も考えて手配をしているだろう。
おそらく帰って来なければ、今度は追っ手を雇い追跡しても来るだろう。
その事をゲンデに伝えると真っ青になったゲンデは、その場に崩れてしまった。
「……そうだ……旦那様はやりかねない……!」
そのまま頭を抱えて自暴自棄になったゲンデ。
「……やっと、やっと!田舎から出てきて貴族に雇ってもらえたと思ったら、すぐに用無しにされるなんて……!あれだけ一生懸命に仕えたのはなんだったんだ……!!!」
うああああ……!と涙を流しながら地面を叩く姿は本当に辛そうだ。
ん?僕が薄情だって思うかい?いやいや、僕だって困っているんだ。目の前のゲンデの様子じゃなくて、空中に浮いた文字に。
アラタ(ディゼル) 13歳 男 人間
HP 100/100
MP 100,000/100,000
スキル マンション
称号 転生者 創造神の加護
……これステータスじゃないか。なんで今見えるんだろ?
そう思いながら気になるマンションをタップできるかやってみると、結果から言うと出来たんだ。
【マンション】
アラタの記憶が蘇った事により使用可能になったスキル。
マンションに関わるありとあらゆるものが魔力対価で使用可能になる。
現在使用可能
[居住区]
・ベースルーム(1K/トイレ/バスルーム付き) MP40,000
[設備]
・オートロック MP10,000
・宅配ボックス MP20,000
[保険]*対象を選んで下さい。(入居者のみ使用可能)
・耐震 MP1,000
・対物 MP1,000
・火災 MP1,000
・人災 MP1,000
[入居者追加]一人に付きMP10,000
……はい?これ凄くない?
「…………ディゼル様?」
僕が宙を見て唖然としている姿が目に入ったんだろうね。ゲンデが僕を見て不思議そうな顔をしている。
(どうせならやるだけやってみるか……!)
追い詰められているのは現世の僕も一緒だ。なら、目の前の希望に縋ってみようと、ベースルームをタップすると身体からフッと力が抜けていった。
そして目の前に現れた現代日本のマンション扉。
「うおっ!」と驚く僕に、おかしくなったか?と眉を上げるゲンデの姿に一つ気づいた事がある。
「ゲンデ……何か見えないか?」
「おいたわしい……ディゼル様。幻覚まで見える程追い詰められていらっしゃる……!」
いや、違うんだけど……じゃ、[入居者追加]をタップしてみるか?いや待て……!
「なあ、ゲンデ。スキルが使える様になったといったら信じるか?」
「ディゼル様のスキルですか……?何も反応しないという?」
「ああ、それが使える様になった。多分今後の支えになるだろう。どうだ?ゲンデ、捨てられた同志だ。俺についてくるか?それとも街に行くか?」
俺の問いかけに一二もなく頷くゲンデ。
「どこに行っても危ない身です。ならば、まだ生きる目をしたディゼル様にお供させて頂きたい!」
「よし!なら決定だな!」
僕は入居者追加をタップして、対象ゲンデを許可すると……
「うわああああ!!コレなんですか?!立派な扉が宙に浮いてるんですけど!!?」
やっぱり見えるようになったらしい。
うん、コレ便利だな。
「コレが僕のスキルマンションさ。さ、中入るよ?ゲンデ」
「え?あのディゼル様?話し方が変わってませんか?」
「それも含めて教えるから、さあさあ中に入った入った」
「えええええ!俺が先頭?大丈夫ですか⁉︎」
「へーきへーき。ほら行くよ」
「ひええええええ!!!」
僕とゲンデが扉の中に入ると、辺りからは僕らの姿は消えたように見えただろう。
———こうして廃籍された初日。僕は従者と棲家を手に入れた。
ーーーーーー
新作よろしくお願いします!
次は12:00更新です。
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