43 ガールズトークしましょ?
「あ……フォーが出来たんだ」
最近、新しい屋台料理が増えて嬉しい。
暑い時は、暑い地方の料理が一番。熱い汁麺だけど、レモンが効いてて美味しく食べられる。
パクチー多めのタマネギ抜き、これは私のジャスティス。
「みんな、サクヤちゃんに刺激されてるから」
パッタイとアヒージョという、不思議な取り合わせのお皿を並べて、ニコニコなのは紬さん。この人は町にいると大概、何かを食べてる気がする。
ハイカロリーの料理をいくら食べても太らない、ゲーム世界の嬉しさを満喫してますね。
この人も浴衣にうちわを挿して、頭に斜めに白ワンコお面をかけた浴衣ガール完全装備状態です。
私は隣りに座って、フォーをズズッと啜る。
うん、ご飯として炊くとイマイチだけど、今のままのお米は、米粉の麺にすると美味しく食べられる。ライスペーパーにして、生春巻きでも良いかも。
「スイートチリソースが完成したら、出すって。ちょっと楽しみ」
「さすが紬さん、早耳。
「スープで炊いても、やっぱり駄目みたい。お米の味そのものの問題らしくて、農耕ギルドが鋭意開発中」
「みんな、お米の国の人だもんね」
そう、美味しいお米があれば、おにぎりだって出来る。
鶏の唐揚げに、ナポリタンをちょっと添えて、卵焼きとタコさんウインナー。それにちょっと青菜があれば美味しいお弁当もできちゃう。
主食がきっちり決まると、おかずが活きるんだ。
そこに農耕ギルドの意地と、レベルアップの鍵があるらしい。みんな頑張ってる。
「それで、みんなを刺激してるサクヤちゃんは、今は何を作ってるの?」
「プリンセスカットの良いルビーが出来たから、より物理攻撃をアップできるように、ジュエリーの構想……というより、設計中。根を詰め過ぎたら、すあまさんにあげるキャッツアイの指輪の金属部分を磨いてる感じ?」
「二刀流で進めてるんだ」
「あまり頭ばかり使ってると、煙を噴くもん。所詮はポンコツ頭だし。……紬さんは?」
「ようやく満足行く量の糸が採れるようになったから、とりあえずはクローラー君の糸だけで生地を織ってる最中。魔法を通し過ぎる生地だけど、考えていけば使い道も有るかも知れないもの」
「その内、宝石ボタンとか使えるようになるのかな?」
「全身がピカッと光るとか?」
「それは先に、ピノさんにサングラスを作ってもらわないと」
あはは。この間の大失敗を、もう知られてる。
目眩ましに良いかも知れないけど、きっと仲間にも被害甚大だ。
当のピノさんは、次はどうやら魔法合金を作らなければいけないらしく、クローラー君から採取できる、謎金属を睨んでるみたい。
鍛冶師の課題にも絡むらしくて、ケインさんと二人、ビール片手に検討中。
……真面目にやろうよ。
「クローラー君の飼育係も二人増えたし、規模を大きく出来るかも」
他の娘のレベルも上がったらしく、紬さんは嬉しそう。
だいたい、女子中心になるだろう服飾職人なのに、糸を取るのに、蜘蛛だの、イモムシだのを飼育しなくちゃいけない方が間違ってるよ。
だからといって、牧畜ギルドで飼うような牛や鶏が糸を吐くのも変だけど。
アイドルを見たいのに、何故かヘビだの虫だのの生態を見せられちゃう某島開拓テレビ番組みたいなものだね。
あ、今ログインしてきたのかな?
リルがカラコロやって来て、悩んだ末にゴーヤチャンプルを買って、嬉しそうに来る。
おぉ、浴衣ガールズ勢揃い。
間にリルを座らせて、紬さんと二人で愛でる。
そういえば、浴衣は販売しないの? みんなに訊かれるんだけど?
「そろそろ、販売するよ。……やっと、私以外にも、浴衣を作れるレベルの娘が出てきたもの。量産できるわ」
浴衣製作と、イモムシ飼育は同じレベルなのですね……。ちょっと複雑。
浴衣ガールがいっぱい増えたら、中央広場で盆踊りでもしようか?
PvPのゲームで、何やってるのかって言われちゃいそうだけど。
「ふふふっ……。そのくらいの楽しみはあっても良いわよね。屋台も鈴カステラとか、綿あめとか頑張ってもらって」
「……たこ焼きと魚の串焼きも」
相変わらず、リルは甘い物より、酒の肴系が好きなのね。
枝豆とか、イカの筒焼きとかも有ると、ケインさんやピノさんが喜ぶ。
「あ、枝豆はもう有るわよ?」
「本当に?」
「だって、リルちゃんの食べてるゴーヤチャンプルにお豆腐が入ってるじゃない。大豆が出来たなら、呑んべたちがやらないわけ無いでしょ?」
そりゃあそうだ。大豆になる前に収穫できるし、茹でるだけ。
っと、急にリルが走り出したと思ったら、黄色いワンピの女性にしがみつく。
……あれって、黒い服着てないけど、フロリナさんだよね?
仕方なく、トリプルバーガーとポテトのセットに唐揚げを付けて、私たちのテーブルに引っ張られてきた。
この人、意外に肉食系?
「ゲーム中なら、いくら食べても太らないもの。ストレス発散には持って来い」
そう微笑みながら、パティ3枚重ねに、たっぷりとチーズの蕩けたバーガーを、豪快に齧った。
やっぱり、『ブレイク・ライン』のみんなの分の、買い出しなのかな?
「一度味を占めちゃうと、やっぱりね。……食の痩せ我慢は良くないわ」
「そうなると、ロキさんたちが一番可愛そう? ラドリオさんたちの第3集落は美味しい匂いがしてたし……」
「安心して、こっちで好評の食べ物は、向こうで屋台出したりしてるから」
「最前線でしょ? 料理人さん、危なくない?」
「ロキさんも料理人だし、同じ様にサブで料理を持ってる戦闘中心の人は意外に多いのよ」
そっか……串焼きの匂いに釣られて、ロキさんと知り合ったのは私だ。
未だに串焼きに関しては、ロキさんのが一番だと思ってる。
「そういえば、『ブレイク・ライン』には、料理兼任の人はいないの?」
「いるわよ? 知らん顔して、料理ギルドに合流して現在修行中」
涼しい顔で、フロリナさんが暴露した。
ですよねー。リルを私に預けて、ジュエラー修行させてるくらいだ。このフロリナさんがいて、美味しいものを見逃すわけがない。
今はみんな、貪欲に新食材、新料理を開発中だから、当分は帰れそうにないと思う。
それがリーダーのハーディさんなら、私は本気で笑うぞ。
「ないない。ハーディは服飾の人だから」
思わぬ暴露に、紬さんと顔を見合わせて大爆笑してしまった。
……似合わねー。
でも、リアルの彼は美大生だと言ってたから、芸術肌ではあるんだよね。
「……私の黒猫ぬいぐるみ、ハーディが作ってくれた」
やめて、リル。想像すると可愛すぎる。
あの強面を決め込んでる人がチクチクと、リルの居場所の印の黒猫ぬいぐるみを作ってあげたなんて……優し過ぎるし、可愛い。
「こら、リル。それは内緒にしてあげないと……」
なんて、フロリナさんに叱られてる。
紬さんと二人、これはニマニマするしか無い。
暑い南国仕様のお陽様の下。ガールズトークはしばらく続いた。
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