サクヤのジュエリーライフ~PvP領地征服RPGの中心で宝石を愛でる~
ミストーン
01 懸賞って当たるんだ?
「わぁ……ネットの懸賞って本当に当たるんだ……」
VRユニットとソフトの現物が届いて初めて、素直に感動した。
現物が届くまでの手続きって、どうしてもネット詐欺を疑っちゃうよね?
ちゃんと『木花咲耶姫 有栖 様』と、宛名も書いてある。
名前を二度見していたから、きっとあの宅配便のお兄さんは契約社員の素人さん。ふざけた名前よね。これ、本名だよ?
キラキラ気味の名前を、厨二な名字が完全に打ち消してる。キラキラネームなら親に文句が言えるけど、キラキラ名字は誰に文句を言えば良いのか……。
この名字が悪いのか、周囲との馴染みが悪くて登校拒否児童。
父が日本画家、母が生け花の家元と、学歴フリーダムな両親のおかげで、とやかく言われること無く、通信教育で在宅JKをやっている。
……私のことは、どうでもいいや。
新作VRMMORPG『ラ・コンキエスタドール VR』のオープニング記念の懸賞に応募したら、当たったのよ。
『征服者』なんて名前で対人戦上等! な内容はイマイチなんだけど、VRユニットは欲しかった。
お高すぎて本体はオネダリするには、気が引けるから……。当った以上は私のもの!
ゲームが気に入らなかったら、途中リタイアして、別のゲームをしよう!
ソフトくらいなら、オネダリできる。
そんな気軽さで初期設定を終えて、長いアップデートの読み込みを、スマホ片手にやり過ごした。
レッツ・ログイン!
まずは、キャラ作りだよね。種族は人族、魔族、精霊族か。
人族……何で、みんな目付きが悪いの? エルフも殺る気満々だよ?
魔族は言うまでもなく……ラミアのヘビしっぽピチピチがちょっと可愛いかも。
精霊族も、みんな目付きが悪い! もっと、平和にいこうよ……。
あ、ウンディーネが優しそう。銀河をSLで旅してそうなお姉さんのイメージ。
面倒臭いので容姿は弄らない。どうせ、長続きはしないでしょ。髪だけイメージ的にロングなので、そこだけ変える。色も水色っぽく。
キャラ名は……『コノハ』『サクヤ』『アリス』どれにしよう? 本名関係だけで、これだけバリエの有る奴……。『ヒメ』は……名乗る勇気も、趣味もない。
今回は『サクヤ』でいいか……。
対人戦をする気も無いので、パラメーターは器用さと知力に振っておく。
真っ暗な画面。
小鳥の囀りと、そよ風、木の香り……視覚以外の感覚を刺激して始めるのは上手いね。これぞVRゲームっていう感じ。
羽ばたく小さな妖精さんに誘われて、チュートリアル。
森の中を巡って、いろいろな施設を教えてもらう。精霊カードを貰って、これでお金のやり取りが出来るんだって。
さよなら、妖精さん。
生産職しかする気のない私は、まっすぐ匠の森へ。
武器を作るのも嫌だしなぁ……。何を作ろうかな?
ん? 『ジュエラー』? 宝飾品加工だって! 面白そうなので、これにしよう。
即断、即決。
お試し気分なので、お気楽なものです。
えっと……この『宝石工房』に行けば良いのか。
すみませーん。入門希望でーす。
カウンターにいたのは、人ではない。……精霊の里だしね。
額に赤い宝石を持った狐のような、リスのようなもふもふ……カーバンクル君だね。
「ウンディーネか……珍しいね。水魔法が強いから、生産職は珍しい」
「向いてないんですか? それなら、キャラを作り直して来ます」
「違う違う! 珍しいとは言ったけど、向いてないとは言わないよ。ノームばかりじゃつまらないから、むしろ大歓迎さ」
やっぱり生産職はノームが多いんだ。さすが、お手伝い妖精。
ウンディーネって水魔法が強いんだ。……ほぅ。回復用のヒールドリップや、攻撃用のウォーターカッターとか、初期で持ってる。……なるほど。
「最初は、何をすれば良いの? カー君」
「その敬意の欠片も無い呼び方はどうだろう? まずは知識を蓄えなさい」
ピッと尻尾で2階を差す。
トタトタと階段を上がり、ふわふわ浮いている石板を読む。
あ……読み終わったら、読んだ石板が消えた。全部無くなるまで読めば良いのかな?
鉱石の種類、基本の加工についての知識ゲット。
宝石の加工だけじゃなく、ジュエリーとするための金属の加工もしなくちゃいけないんだね。当たり前だけどさ。
よ~し、全部読んだ。
トタトタと階段を降りながら、カウンターに声を掛ける。
「全部読んだよ、カー君。最初は何をしたら良いの?」
「だから、その呼び方は……。基本製品を製作し、納品してくれれば買い取るよ。経験が増えれば、レベルが上がる。地下に無料のレンタル工房があるから、使って良し」
「ありがとう! じゃあ、採掘に行って来る!」
「慌てちゃ駄目だよ! 道具が無いと掘れないし、加工できない」
「じゃあ、道具を頂戴」
「それは、売り物。工房の売上に協力しようよ」
仕方ないので、買う。採掘セットと、基礎加工セット。……高い。
睨んでみたけど、割引はしてくれないみたい。可愛いのに、セコい。
「……どっちが?」
私はセコくないので、定価を払って買う。……ノセられた?
仕方ない……買った以上は元を取らねば。
石板にあった通り、匠の森の外れにある古井戸に向かう。
まだまだ鉱山には行けないけど、ここで基礎製品の材料になる鉱石は採れるらしい。さすが精霊の森……いろいろチートだ。
下から覗いてる人がいないのを確かめて、縄梯子を降りる。
精霊は下着を穿いているのでしょうか? ……後で確かめてみよう。それによっては、服装を考えないといけない。(穿いてました。白です)
初心者向けに相応しく、松明もいらない明るさ。
岩肌に浮かぶ?マークをつるはしで叩くと、いろいろなものを採れる。
銅!
……訂正、三種類のものしか採れない。
持ち物欄いっぱいに詰め込んで、宝石工房に帰る。
まずは金属を
自分の名前のバッジを作ろう!
っていうのが最初の課題だ。……昭和の露店かよ!
本名で作れと言ったら、私は泣くよ? 漢字で5文字、ひらがなで9文字、アルファベットでは数える気にもならない名字の子には、トラウマでしかないからね?
しかも本当は旧漢字を使っていて、戸籍と各種登録用の人名漢字が合わなくなって、何かあるたびに役所で照合の手続きが必要になる面倒臭さを知って欲しい。
とりあえずは『Sakuya』の6文字で済むので、怒りを抑える。
最初に引っ掛ける部分を作ってから、柔らかい銅をうにうにとラジオペンチのようなもので曲げて文字を作っていく。
……この世界の文字はアルファベットもどきらしい。
最後に針の部分を折り曲げてカット。針を研いで出来上がり。
これを2つ作る。
1個は次の課題用。錫のインゴットを小鍋に入れて、バーナーで溶かす。それを小さな受け皿に注いで、メッキマシンに乗せる。そこに1個を入れて……スイッチオン。
うん、銅のままだと針金細工だけど、銀ピカの錫メッキをすると、ちゃんとアクセサリーに見えるから不思議だ。ピカピカは正義。
溶かした錫は、次にすぐ使えるように、そのまま持ち物欄に入れちゃう!
3つ目の課題は瑠璃磨き。
あの井戸で採れる瑠璃は、涙滴型に磨きやすい形をしてる。
長さで3センチ位あるけど、きっと質は低い。安物。
耐塵マスクを付けて、魔力で宝石グラインダーを回す。もふもふの円盤に砥の粉を付けて、そこに押し当てるように瑠璃を磨いてゆく。
砥の粉と、削れた瑠璃の粉が煙となって飛散る。これは耐塵マスクが必要だ。
形は元々出来ているから、表面をツヤツヤに磨き上げればおしまい。
透明度の低い石だから、表面の艶だけで良い。いずれ、透明度の高い石を研磨する時は、光の屈折やら、内部の反射やらも絡んでくるらしい。
……そうなる前に、別のゲームに乗り換えちゃおうね。
「カー君、出来たよ!」
「だから、その呼び方は……まあ、物は良い。合格だ」
ファンファーレが鳴って、スキルアップ!
途端に周囲に、プレイヤーの姿がどっと増えた。ひょっとして、これまでがチュートリアルだったの?
「ようこそ、サクヤ。この世界を楽しんで欲しい」
カーバンクルがニッコリと笑った。……器用な。
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