第14話 少女

 それは圭の入学式まで遡る。




 わくわく感を胸に入学式に赴く圭を誰もが祝福した。



 両親と共に街中を歩いて行く圭の前にあやかしや付喪神たちが現れて手を振って送り出す。



 またそんなみんなに圭も笑顔を向けて歩いていく。



 じぃじやばぁばが教えてくれた。


 他の人の眼に写らない者たちには笑顔を向ければいいと、他の人には見えないから学校の子たちに怖がられてしまうから気をつけるようにと。


 圭はそれを素直に聞いた。



 元々幼稚園でも年長になってからは同じように見えてる子がいない気がしていた圭はみんなと少し違うのかなと感じていたし、だからこそ自分にだけ見えるみんなが好きだった。



 色褪せることのない大切な記憶も胸にあり、みんながいるから学校へ通うことの変化も何も怖くはなかった。



 入学式をつつがなく終えて、両親や祖父母と写真を撮ったりした後はみんな笑顔で帰っていく。




 その輪の中心にいる笑顔の圭を一人の少女が見つめていた。



 

 その子は圭と違って見えるわけでもない普通の女の子。



 入学式前に圭を見かけて同じクラスになり帰りも見かけたから、ただ気になって見ていただけの女の子。



 その視線に気付かないまま圭たちは帰っていく。




 圭が自宅に帰った後は、みんな揃ってお祭り騒ぎだった。

 

 圭の小学校入学をお祝いして、そしてこれからを祝福して盛大なパーティが開かれてみんなでわいわいと話に花を咲かせていた。



 ただ幸せな日々の中、圭について誰も気付いていないことがある。


 いつも見ているけど気付けないほどの小さな差異。




 そして現在。




 入学式から三ヶ月が経った頃、圭に話しかける女の子がいた。



「はせがわ君、おはよ!」



「たかせさん、おはよ!」



 入学式で圭を見ていた子だ。

 


 高瀬真奈たかせまな、同じクラスになり本人すら気付いていないが感覚で小さな差異に気付いた女の子。



 いずれ時間と共に埋められるはずのもの。



 圭はあの日あの時あらゆる感情に襲われた結果、精神が異常な速度で成長する ……はずだった。



 けれど小さな身体にそのような精神が収まるはずもなく、圭自身も気付かないまま無理やり抑え込む形で進み ……あの日から心の成長が止まっていた。




 二人を忘れたくないと言わないばかりに。




 色々学び身体が大きくなるにつれて解消されていく差異は気付かれるようなものではなかった。



 ただ同じ歳である高瀬真奈は気付き、自然と圭のそばにいるようになった。




「やっぱりはせがわ君ってよびにくいよ。けい君でもいい?」



「うん、いいよ」



 三ヶ月経ち圭たちには学校で他にもお友だちはいるが二人にとってはお互いが小学校での初めてのお友だち。




「けい君ってごはん何が好き?」



「ハンバーグが好き」



「けい君、男の子だー。わたしはおにくが好きー」



「おにくも好き!」



 圭はハンバーグが好きなら男の子? お肉が好きなら男の子じゃないのかな。

 と少しだけ疑問に思いながらも高瀬さんとの話しを楽しむ。



「給食はうどんだってー」



「給食、いつもたのしみ!」



「けい君、くいしんぼうさんだもんね。でもほうれん草もあるよ」




 この時ばかりは圭の顔は真顔になった。




 嫌いな食べ物ランキング、えある一位に輝いているほうれん草。



 堂々とした振る舞いで六年間ずっと首位に居続けるほうれん草。



 以前、ほうれん草が給食にでた時に高瀬さんはすぐに気付いた、いやこれは誰でも気付く。



 他は食べ終わっているのに、ほうれん草のおひたしだけを残してとても嫌そうな顔をしている圭の姿があったし、さらに後日にほうれん草の和え物がでた時は見てさえいなかった。



 母の英里子が克服させようとあの手この手で頑張るのでおひたしなどの料理になる前の姿も見ている、謎の草。



 見なかったことにしたいし埋めてしまいたいと思っても埋めて増えたらどうしようと怖くて出来ない強敵。



 朝から圭の一日は終わりを告げ、お昼以降は気落ちしたまま過ぎていった。




「圭、おかえりなんし」



「たまもお姉ちゃん、ただいま」



「圭、元気ありんせんね」



「給食にほうれん草がでた」



「圭はほうれん草が嫌いなのでありんすね」



「うん」



「あちきの尻尾の上でゆっくりするとようござりんす」



 端的に言うと、狐たちと一緒にすぐに寝た、早かった。




 そして強敵はすぐに舞い戻ってきた。



 その日の夕食に出たロールキャベツ内のひき肉に混ぜ合わせられている強敵。




 草in草。




 嫌いな食べ物ランキングの首位をキープしているあいつを圭が気付かないはずがない。



 大好きなロールキャベツを食べたいけど食べれないジレンマ。



 村正が何とかしてあげたいと思っても圭のためだからと言われて手を貸すことを禁じられている。



 圭のためと言われては応援するしかない。



 村正は圭を助けたいけど助けることができないジレンマに頭を悩ませていた。




 初めてのあーんをしてみようかな。



 圭くんが苦手な食べ物を克服するために甲斐甲斐しくお世話してあーんする私とあーんされる圭くん。



 いいかも♡



 でも初めてな最大限活かせる時がいいかなー。



 村正はいつも計算高い、というわけではなく嫌いな物を口に運ぶことを嫌がられるとは全く思っていないし、嫌われるかもなんて考えすらない。



 少し前に圭から嫌いと言われた時のことはもう記憶にないし、圭に近付く女は殺る時は殺る子なのだ。



 パスが繋がっていようと、それですぐにバレたとしても問題ない。



 圭にあんなことがあっても、殺るのは二人の将来の邪魔になる障害物を排除するだけだから全く関係ない。



 高瀬さんにはぜひ逃げてほしい。危ない。



 その後、頑張って少しだけ食べた圭に母はそっとほうれん草が混ざっていないロールキャベツを渡した。

 

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