魯坊人外伝~のじゃ姫のあばれ旅珍道中~
牛一/冬星明
第一章 お市ちゃんの関東あばれ旅
プロローグ
第三代将軍
先代将軍であった
その聚楽第にたくさんの本を抱えた
「太閤殿下におかれまして、お元気そうで何よりございます」
「甫庵。心にもない世辞はよせ」
「いいえ、太閤信忠様がいらっしゃるので天下は安んじていると心から思っております」
「其方が言いたいことはわかっておりが、これも叔父上が決められたことだ。儂如きが変えることはできん。それだけはわかってくれよ」
叔父上とは前
すでに亡くなっているが、信照が作った官僚組織は盤石であり、太閤の権限で織田家の方針を変えることなどできなかった。
慶長十六年(1611年)に発行された
当然、お市の家臣として活躍した
甫庵は悔しかった。
牛一は
だが、津軽をはじめ、西東北を平定したのはお市とその家臣らであり、信勝はそのお零れを授かったに過ぎない。
だが、織田本家より活躍する分家などあってはならないと信照は自らの活躍とお市の成果を正史から消した。
だが、甫庵はそれに納得できなかった。
故に、正史ではない、軍記物として『
今回は、その第三部となる『奥州王、織田お市編』をもってきたのだ。
「甫庵が書く父上は実に面白い」
「ありがとうございます」
「牛一の書いた本は、父上が格好良過ぎだ。本能寺で大往生とは何だ? 甘党の父上は大福をほおばって喉に詰まらせて死んだのだぞ。事実を公表できないこっちの苦労を考えみろ」
「それこそ、正史に書けぬことでございます」
「少し駄目なくらいが父上らしい」
「信照様、お市様が凄すぎたのです」
「まったくだ。奥州の者から聞いたぞ。籠城する城に単身で乗り込んで、家臣らを薙ぎ倒して降伏を迫ったとか」
「凄いお方でございました。付いていくだけで、命が足りないと秀吉様も何度も嘆かれております」
「器用者の秀吉が泣いたか?」
「泣きながら走ったと言っておりました」
「では、さっそく読ませてもらおう」
そう言うと信忠は、甫庵が持ってきた『太閤記』第三部を読み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます