第612話 異世界食材ガチャ
「蕎麦だけでは足りんな」
「またすり下ろした山芋を持っていきます?」
渡した蕎麦の量を見たら、ラベンドラさんにそう言われた。
そりゃあねぇ。
『無頼』アメノサ組分のお蕎麦だもの。
四人分にはならないよ、うん。
「そうだな……いや、ガブロ、アレを」
「ん? どれじゃ?」
「アレだよ、アレ」
「カケルに渡す予定の食材が多すぎて分からん。どれじゃ?」
……?
なんか怖い事言ってない?
異世界食材が俺に渡されるのを、行列作って待ってるって事?
「『――』を出せ」
「ああ、これじゃな」
しかもその食材、たちが悪い事に名前が分かんないんだよな。
頼れるのは俺の見た感じと触った感じ、後は茹でて食べてみた感じだけという。
「こいつで何か作ってくれ」
で、今回手渡されたのは……。魚。
多分、魚。
少なくとも、この見た目で鹿です、みたいな事はないはず。
見た目は白身魚のソレなんだけど、身の所々にオレンジとか、水色とかの薄い色が入ってるんだよな。
がっつりと、じゃなく、こう……光の反射か? と思う程度にそれとなく入ってる感じ。
形状はなんと言うか、市場でしか見ないようなマグロの切り身って言うの?
柵状にする前の、こう……解体ショー直後のブロックみたいな……。
かなりデカい白身っぽい魚、もしかして……。
「一応聞きますけど、リヴァイアサンとかじゃないですよね?」
「? 違うぞ?」
違うのか。
ワンチャン当たってると思ったんだけどな。
「リヴァイアサンならその程度のサイズで済みませんもの」
「マジすか?」
「我々の世界の海溝はリヴァイアサンが這った跡だと言われている。それだけでサイズが想像出来るだろう?」
出来ませんけど。
というか、大きすぎると全然イメージ出来ないのよ。
海溝が出来るってなにそれ。
仮にそんな大きさだったら陸地から見えるでしょ、リヴァイアサン。
「まぁ、リヴァイアサンとは言わずとも、そこそこの大きさはある。近海のヌシとでも仮に呼ぼうか」
腕が伸びる海賊王を目指す少年のパンチで吹っ飛ばされそうな名前になっちゃった。
あ、でもそっちの方がイメージ付くかも。
「てことは魚でいいんです?」
「魚……どちらかというと海蛇が近いが……」
むぅ。
でもまぁ、何となくイメージ出来たわ。
「とりあえず試食してみますよ?」
「うむ」
と言う訳で受け取ったブロックをまな板に置き、味見分を切り出して……。
「うん?」
違和感。
なんか、身を切る時に包丁が引っかかる様な……。
「身に骨が無数にあるから注意してくれ」
「切る前に言って貰えます?」
伝えろ、そんなの。
真っ先に。
……でも、これで俺の脳内で俺の知る食材と繋がった。
海蛇っぽい見た目で骨が沢山。
天地明察!! この食材――鱧!
……え? これから毎日俺って骨切りしなきゃいけないの?
普通に無理だが?
「えーっと、毛抜き毛抜き……」
とりあえず試食分に入ってる骨を抜こう。
スマン姉貴。新しい毛抜き買って来とくから骨抜くために使わせて貰うよ。
「結構しっかり目に入ってますね」
「それがまた骨でな。食べる時に口内に刺さるし噛めば不快。だが調理前だと抜くのに苦労する」
「どうしろと……」
「思いつかんからカケルに回そうって話になったんじゃわい」
俺は異世界食材の駆け込み寺ではないんだけど……。
でもまぁ――って、何か思いつくわけないだろ、いい加減にしろ。
「う~ん……こんなもんか」
結構ボロボロになっちゃったけど、まぁ、骨は抜けた。
見てみたら骨の先端が釣り針の返しみたいになってて中々抜けないんだ。
絶対に簡単には食べられたくないという鋼の意志を感じる。
まぁ、抜けたんで普通に塩茹でにして食べるけど。
……待てよ? 茹でた後に氷水に晒すか。
あと梅肉チューブがあったはず……。
ハッ!? 危ない危ない。
特徴とかから勝手に鱧として脳が認識してたけど、この見た目で梨味とか有り得るかも何だったわ。
……んでもこれまでの経験上、魚は魚の味がしてたし……。
とりあえず食べてみてからだな、うん。
「行ったり来たりしとるがなんかの儀式か?」
「カケルにしか分からない事なんだろう、きっと」
始まりはどこかの誰かさん達がバナナ味の牡蠣を食べさせてくれたことなんですけどねぇ?
まぁ、説明はしないけども。
「いただきます」
茹で上がり、身の白さから透明感が消え、縮んだのか反り返った身を持ち上げて。
何度か冷ましてそのまま口へ。
「どうじゃ?」
と四人に見守られながら……。
「美味いっすね」
感想を絞り出す。
俺、鱧をあんまり食べた事無いんだけどさ。
なんか、凄いスッキリした味の白身だった。
ガツンと来る旨味とか、脂の旨味! とかじゃなくて。
ゆっくり深呼吸しながら口の中の空気を鼻に抜いて、集中して味を探すような……。
繊細な味って言うのかな。少しでも何かに邪魔されたら、見失ってしまいそうな、そんな味。
「それで? 何か作れそうか?」
「ん~……骨がどうにかならないと難しいと思いますけど……」
「ですわよねぇ……」
一番のネックが骨なんだよな。
これまでの食材では、ほとんどと言っていい確率で抜かれていた骨。
それはもちろん、異世界的に素材になるからなんだろうけど……。
今回の異世界鱧は、骨がそのまま入っていた。
つまりは容易に抜けないという証拠。
「火を通した後なら、多少は抜けやすくなるんだけどな」
「……だったら、一つレシピを教えましょうか?」
「? 美味い食い方か?」
「ええ。こっちの世界でも似たような魚がいて、その魚の定番の食べ方の一つです」
「ほう」
鱧の定番の食べ方と言えば……そう、土瓶蒸し。
と言う訳でラベンドラさんに土瓶蒸しの作り方をご紹介。
……食事として適切か? とか考えてはいけない。
俺にはこれ以上思いつかないのだから。
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