第594話 厄介だなぁ……

 魔法陣で帰る異世界組を見送り……さて、と。

 炒り塩水を作り、山芋マンドラゴラを沈める。

 今まででよく見た解呪方法だけど……。


「ずーっと出てくるな……」


 普段なら、ある程度付けとけば呪いは出切って水は透明になるんだけど……。

 この山芋マンドラゴラ、ゆる~く呪いが出続けてるって言うか……。

 これ、呪いも再生してる可能性があるんだよな……。

 清酒じゃないとダメ?


(清酒であれば確かに解呪は出来るが……一日経てば呪いは元通りじゃな)


 マジかよ。

 八百万パワーの清酒ですら一日しか解呪出来ないのか。


(全員項垂れとる姿は圧巻じゃのぅ)


 これ、言い方的に敗北を認めた八百万が落ち込んでるのか……。

 ま、まぁ、そもそも再生すらさせなきゃいいわけですし……。

 ――にしてもどうするか……。


(先にすり下ろすなり切り落とすなりをして、そこから解呪すれば呪いは復活せん)


 ……なるほど。

 てことは解呪前に触る必要がある、と。


(じゃがお主が買って来た軍手とやらで防げるは防げるぞい)


 まぁ、直接触るわけじゃないし……。

 一応炒り塩水に軍手浸しといたほうがいいです?


(まぁ、万全を期すならば、じゃな)


 異世界食材なんて得体のしれない物を扱うなら、そりゃあ万全を期すでしょ。

 と言う訳で別の入り塩水に軍手を付け……装着。

 ――あまり付けたくはない感触だなぁ。


「触れて大丈夫だよね?」


 今だに細く呪いの出続ける山芋マンドラゴラを浸した炒り塩水に恐る恐る手を入れ、引き上げて。

 とりあえず半分ほどを切り落とす。

 ……この場合、放置してたら二つになるのかな?


(僅かでも質量が多い方が本体と認定される。今の場合はカケルの右手が触れている方じゃな)


 なるほど。

 つまりは質量をピッタリ半分にしたら増殖する、と。


(普通に再生しなくなるだけじゃな)


 再生しないんかい。

 まぁ、それもそう……なのか?


「とりあえず短冊切りにして、めんつゆで食べてみるか」


 山芋マンドラゴラを引き上げた途端に透明に戻った炒り塩水に、切り落とした山芋マンドラゴラをイン。

 解呪されるのを待って――って、もう再生してるでやんの。

 早いなぁ……。

 解呪が終わった山芋マンドラゴラの皮を剥き、短冊切りに。

 そしてめんつゆかけて、鰹節を乗せて……。

 いただきます。


「うん、普通に山芋だね」


 シャクッ! という軽い食感と共に、ちょっとヌル付く噛み心地。

 鰹節とめんつゆの旨味に助けられ……いや待て?

 結構美味いな、この山芋。

 なんと言うか、風味がめっちゃ爽やか。

 鼻に抜ける香りが、何だろうな、土っぽいんだけど土臭く無くて。

 こう、森とか、山みたいな香りがする。

 けど、そこまで強くない。ふわりと香りはするけど、それが口の中や鼻を支配するほどのものではなくて。

 そこに山芋の、それも自然薯に近いような濃厚でねっとりとしたうま味。

 それが結構遅れてくるというか、噛む度に滲み出てくる感じ。

 なんだろうな……スルメみたいな。


「……普通に美味い」


 で、飲み込んだ頃に遅れて上品な甘みが感じられて……これ、とろろ汁にしたら最高だろうな。


「納豆とかめかぶ、マグロの赤身とか絶対に合うし、なめたけも美味いはず……」


 そうなったらもう考えることは一つ。

 今夜のメニューなんだけど……。


「大量にすりおろしてとろろ飯にして、お好みで具材を乗っけて貰うようにするか……」


 お好みとろろご飯って感じで。

 もうとろろがメイン。それくらいのポテンシャルをこいつは持ってるよ。


「じゃ、一旦寝ますか」


 味見用の短冊切りを食べ終え、残った切り落とし山芋マンドラゴラはラップをして冷蔵庫。

 本体山芋マンドラゴラも冷蔵庫にぶち込んで……。

 おやすみなさい。



 おはようございまふ。

 と言う事で朝なので……。

 山芋、すりおろしましょう。

 何のために俺が昨日わざわざ切り落としたまま放置したと思ってるの。

 朝ご飯にするために決まってるでせう?


「みそ汁はインスタントで……、刻み海苔とわさびでいいか」


 お湯を沸かしてみそ汁を用意し、海苔とわさびはとろろご飯用。

 早速山芋マンドラゴラをすって……って、ヒィッ!?

 昨日使ってそのままシンクに放置してた軍手が紫一色に!?


(使い終わった後に炒り塩水に浸さんから……)


 浸すか!! 普通!!

 マジかよ……どうするのよこれ……。


(炒り塩水で解呪するしかないのぅ)


 ……今回の異世界食材、これまでの中で一番扱いが大変かもしれない。

 いやでも調理中に元に戻るドラゴンよりはマシ……か?

 割と五十歩百歩だな……。


「とりあえず割りばし……」


 炒り塩水を作り、軍手を割りばしで掴んで放り込む。

 軍手に触れた割りばしも要り塩水に漬けて、と。


「切り落とした方は大丈夫だよね……?」


 一抹の不安を覚えつつ、冷蔵庫を開けると……。


「良かった、特に何か起こってたりはしてないな」


 山芋マンドラゴラと目が合ったけど、別にそれだけ。

 切り落とした方の山芋マンドラゴラをどうにかして助けられないかと体を擦り合わせてたらしい。

 罪悪感が凄い……。

 とりあえず切り落とした方の山芋マンドラゴラを回収して……。

 ああ、そんな「え? 私の半身を持って行くんですか!?」みたいな顔して見つめないで。

 目に涙浮かべないで。

 美味しく食べてあげるから……。


「なんで朝からこんなテンションにならなきゃいけないんだよ……」


 現代日本人がマンドラゴラを食べる時、一番ダメージ高いの精神攻撃説。

 なお、検証対象は俺だけなもよう。


「さっさと食べて会社行こう、うん」


 と言う訳で朝ごはんの調理開始。

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