スキル至上主義高校と偽りの権力者 〜国家権力者の一人となった少年は永闘アカデミーで世界の理を覆す〜

白凪伯斗

第1話 プロローグ

 ──突然だが、君たちは自分が能力者アビリストであると世間に露見したらどうなるか、と考えたことがあるだろうか。仮に世間に露見した場合、周囲からもてはやされ、自分自身も何でもできると思い込んでしまう。しかし、実際はそうではなくむしろ周囲、さらに同級生にまで卑屈な目で見られたり、軽蔑されることが少なくない。この世界にはスキルという特殊なものが存在している。しかし、これは全人類が使えるのかというとそういうわけではない。スキルを使うためには専用デバイスを装着するだけでなく、体内から作られるオーラが必要になる。西暦二◯五◯年頃から科学技術によってスキルが発見され、ASDという操作デバイスが創作された──



夜桐大翔はとある実験の最中、偶然改造できた装着型デバイスAアーム・Aアビリティ・Dデバイスを扱える人間になった。Aアーム・Sスキル・Dデバイス使用者は、デバイス操作に加えて詠唱を必要とし、公式に上がっているスキルしか使用できない。しかし、大翔が開発したAADを使用する能力は、基本無詠唱でよく、さらにスキルを数字化しているため、好きなように数字を書き換えることで非公式なスキルを使用することができる。当然大翔が作ったAADは一部の国家機関の上層部しか知らない。そんなこともあり、大翔は日本:公安スキル特捜部にスカウトされた。このAADを使用できる大翔を含めた国家機関の上層部はASD使用者と区別するため、能力者アビリストと呼ばれている。



***



西暦二◯八◯年のある日、国家の権力者の一人が大翔を呼び出していた。


「お呼びでしょうか、楓先生」


大翔がそう呼んだ相手は志貴楓しきかえで。彼女は大翔のスキル開発の先陣を切っている人物である。


「忙しい中、呼び出して悪かったな」


「いえ、お気になさらず。それで、要件というのは?」


「ああ、君にとある話が降ってきてな。これを見てくれ」


そう言ってあるデータをホログラムで提示した。


「これは永闘アカデミーというスキル使用者を教育する国家機関の校内図だ」


「スキル使用者、と言いますとASDを扱う教育機関、と言ったところでしょうか」


「そうだ。だが、最近私たちに内密でとある研究をしているようだ。そこで、」


楓は席から立ち上がり話を続ける。


「君もちょうど十六くらいだろう?君には三年間、この教育機関に通ってもらおうかと考えている」


「……他の皆さんも賛同したのですか?」


「もちろんだ。確かに君は十六歳とは思えないくらい膨大な知識を持っている。だが一般人とは今まであまり縁がなかった、これはいい機会ではないかと皆も感じていたのだろう」


本当は結構だ、と断りたいところだが、国家権力者が揃いも揃って賛同した決定事項なのだ。それを拒否することはどう考えても不可能である。大翔は再びポーカーフェイスを作り出す。


「そうですか…。皆さんの決定となれば仕方ありませんね、わかりました。その仕事受けさせていただきます」


「それはありがたい。では早速五月十日の始業式から参加してくれ。それと、このアカデミーは訳ありで離島に存在している。君もきっと驚くだろう」


そう言うと、彼女は部屋を去った。その後、誰もいなくなった部屋で一人ため息をつくのだった。



***



「あれ?ここどこだ?あの地図アプリで見たところこの辺だったんだが」


時は5月10日。これから行くアカデミーの始業式は普通の高校と違い、一ヶ月遅れて始まる。大翔はここ小一時間変な森林の中を彷徨っていた。ちなみにこの森林は日本本土から少し離れた離島に存在する。何度グー◯ルマップで検索しても、一向に目的地に辿り着くことができない。


「一体ここはどうなっているんだ?」


そう独り言を呟き、再び森林の中の捜索を開始した。しかし、気づいた時にはまた元の位置に戻ってきてしまっている。つまりさっきからぐるぐる同じところを行ったり来たりしているというわけだ。大翔は試しにAADを起動し、スキルを使ってみることにした。(これも非公式のスキルで、楓が開発したものである)



『スキルコード 0001:瞬間転移メタ・モーメント



……。何も起こらない。これを使えるのは一度来たことのあるところだけだった。最初は、事前にもらった資料とAADがあれば何とかなる、そう信じて一度も疑わなかった。そう言えば…。大翔は楓先生が何気なく放った一言を思い出した。


『ここのアカデミーには、特殊な電波妨害工作を仕組んでいて防犯対策、そして外部からの詮索を受け付けないようになっている』


しまった、完全に忘れていた。そう言えばそんなことを言っていた。完全にお手上げ状態である。そうだあれがあるじゃないか、アカデミー専用端末が。早速起動してみる。ちなみに、大翔が持っている端末は少し他の生徒のものとは違う。この端末をもらった後、このアカデミーの管理者権限をハッキングし、生徒情報などの機密情報が入っているファイルを盗み出していた。しかし、肝心のアカデミーの核心に迫るような資料や歴史などがまとまっているものは手に入れられなかった。どうやら、かなり公安を気にかけているようだ。ちょっと揺さぶりをかけたぐらいではどうにもならないらしい。AADはあくまで非公式で特殊なスキルを使用する時に使うものであり、基本的な身分証などはこの端末を用いる。


大翔は専用端末のマップを開いてみる。するとさっき歩いた場所とは正反対の場所を指していた。


「は?正反対にはこのまま行くと確か滝があるよな…」


不思議に思ったが、とりあえず近くまで行くことにした。腕時計を見ると、時間は既に8時を回っていた。


「探してみるか…うわぁぁぁぁぁ!!」


後ろから迫ってきた何かに押され、体勢を崩してしまった。


「っっ!! 危ないじゃない!ちゃんと前見て歩きなさいよ!もう時間ないのに…って、あなた私と同じアカデミー生?だったら急いだ方がいいわよ、今日は始業式があるから。」


(明らかに彼女の方からぶつかってきたような気がするが…)


あろうことかある美少女と思いっきりぶつかってしまった。身長は大翔と同じか少し低いくらいで、髪はストレートを腰のあたりまて伸ばしていた。彼女は「可愛い」というよりかは「美しい」という言葉が似合う。何と言ってもその顔立ちをより一層目立たせているその吸い込まれそうな瞳は淡いブルー色をしていた。そして、その体格から一見するとモデルだと思われるような、そんな存在だった。彼女はじゃあね、と手を振って走り出した。大翔はこんな状況なのにも関わらず、敬語を忘れることはなかった。


「どこに行くんです?そっちには滝が…」


その声を聞き彼女は再び足を止め、俺に近づいてくる。


「あなた、もしかしてここに来るの初めて?」


「ええ、俺は夜桐大翔やぎりひろとです。今日からここに転入することになりました」


ああ、そう彼女はつぶやく。


「君が、転校生なのね」


彼女は興味深々といった様子で見てくる。


「それじゃあ、あの滝の秘密は知らないってことね」


「滝の秘密?」


「とりあえず私についてきて」


そう言って彼女は滝に向かって歩き出した。大翔はそこにずっと突っ立っているわけにもいかず、とりあえずついて行った。


道中、彼女がいきなり話しかけてきた。


「私の自己紹介がまだだったわね。私は柊木舞。一応この永闘アカデミーで生徒会長をしているわ。大翔くんは聞いたことあるかしら?」


さっきからずっと気になっていたのだが、彼女が身につけているものはどれも高級品ばかりで、とても普通だったら買えるようなものではない。どこかのお嬢様なのだろうか、そう考える合点がいく。


「…すみません。本当に永闘アカデミーについては存じ上げないです」


嘘である。本当は事前にその辺のことは調べ上げていた。彼女は一瞬残念そうな顔になったがすぐに元の顔に戻った。


「そっか〜、残念。あっ!そろそろ着くわよ」


気がつくと大翔一行は滝のちょうど真上あたりにきていた。


「やっぱり何にもない…本当にここにアカデミーがあるんですか?」


「まあ、見てなさい」


そういうと彼女は装着型デバイスAアーム・Sスキル・Dデバイスを装着した手を水にかざして『スキル』をした。



『スキル構造展開式:幻影解除ファントム・リリース



この詠唱スキルも当然大翔は扱うことができる。

さっきまであった滝が嘘のように消え去り、目の前には大きな近未来感あふれる都市が存在していた。今まで本当によく見つからなかったなというレベルである。この都市の大きさは現代の東京に匹敵する大きさである。資料で見ていたが、実際見るのは初めてだ。


「さっきのスキルでここにあった幻覚を私たちだけ解除したの」


大翔は端末を取り出し、マップを開く。端末に映し出されたマップは、さっきまで詳細がわからなかったが今はこの都市が詳細に明記されたものに上書きされていた。何だかゲームみたいである。このマップを拡大していくと、現在地:天咲市てんざきしと書かれていた。


「ここは天咲市っていって、大きい都市のうちの一つなの。どう?驚いた?」


彼女は面白いものを見ているかのように問いかけた。


よく目を凝らしてみると、スーパーを含めた日用雑貨店やゲームセンターなどの娯楽施設、さらにはホテルなどが都市の至る所にある。本当に現代の日本をそのまま近未来化した感じである。


「ようこそ、天咲市へ!」


彼女は嬉しそうに言った。そんな彼女にお願いをしてみることにした。


「この後時間ありますか?できればこの都市の案内をして欲しいんですが」


「…ごめん、これから私生徒会の用事があって…。今度時間が空いた時でもいいかな?」


「ええ、助かります。そういえば永闘アカデミーってどこにあるんですか?」


彼女は地図を指差し、トントンと叩く。


「永闘アカデミーは天咲市の中心部にあるわ。この都市はアカデミー中心に動いているのよ」


なるほど、アカデミーはこの都市の重要機関なのか。どうりでスキルが効かなかったわけだ。


「それと、もう一つ」


ん?と大翔の方を向く。


「なんでさっき外部にいたんです?この都市でなんでも完結しそうなのに」


「それはねぇ……内緒!」


美少女と『内緒!』と言う時の首をかしげる動作この二つがマッチしすぎている。が、大翔は表面上冷静に振る舞った。


「秘密主義、というわけですか。今のは聞かなかったことにします」


「ありがと、大翔くん。それは助かるわ。」


「それでは、これからよろしくお願いします」


こうして、大翔の永闘アカデミー生活が始まったってしまったのだった。

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