十七話 魔物の行方

二階から落ちてきた魔物は、すぐさまロードリックが取り押さえていた。


「ロードリック何があった」


駆けつけたのは、新しい衣装に身を包んだレオンハルトだった。丁度、汚れた服を脱ぎ終わり着替えたところで騒ぎを聞きつけ会場に戻ってきた。


「俺が知るか。魔物が上から降ってきたんだ。ほらよ、お前の剣だろ」


ロードリックは魔物から取り出した剣をレオンハルトに投げつけた。

半分に砕かれた剣。持ち手部分には蔓が伸びたような装飾が施されており、確かにレオンハルトの物である。


「飾りの剣を魔物に刺すなんて、やるな」

「いや、俺じゃない」

「はっ? じゃあ誰が」

「俺は、さっきまで着替えてたんだ。リリィ……リリィはどこにいる」

「リリィ? 誰だそいつ」


レオンハルトはぐるりと一周、宮殿を見渡したがリリィだけ影すら見当たらない。


「ウェスティリア家の使用人なんだけど、俺の剣や装飾を預けてそのまま」

「盗まれたって……剣はあるな」


唯一、手に残っているのは壊れた剣に滴る血だけ。


「もしかしたら彼は」

「アンっ! どうしたのその血は」


魔物を見る為に見物客が多く集まっているのだが、少し離れた所にもう一つ人だかりができていた。


「わたし、ままものにおそわれてっ」

「アンしっかりして、もう大丈夫だから。騎士様たちがどうにかしてくれるはずよ」


レオンハルト達が人の壁をかき分ければそこには、アン嬢とアンの母親がいた。アンはその場に座り込みせっかく仕立てたドレスはシワを重ね、手元の辺りは乾いた血で染まっていた。


「アン嬢はどうされたのですか」

「どうやら、先ほどの魔物襲われたらしくーーー怪我はないんですけど」


足に力は入らず、血で汚れた自分の手を見るたびにアンは体をさすり怯える。怪我はないが心の方を病んでしまったようだ。


「すいません、奥様。リリィはどこにいるかご存知ですか」

「……リリィ?」


反応したのは母親ではなく、顔を伏せていたアンのほうだった。


「レオンハルトさまっ! アイツは、アイツは」


「なんだよっ」ロードリックが驚いたが、アンは気にすることなくレオンハルトの服に縋り付いては、辿々しく言葉を放つ。


「アイツは悪魔よ。わっわたしみたもの、あいつリリィが魔物を殺して笑ってるところみたもの」

「アン嬢、落ち着いて」

「そしたらっ突然星が出て来て落ちていってっ。目に光がやきついて、消えてたのよ。アイツはきっと悪魔と契約しているのよ」

「分かりましたから、アン嬢一旦休みましょう。その後、お話ししてください」


服を握る震える手をレオンハルトは優しく引き剥がし、アンの背中をさすり落ち着かせた。


「何で、私がこんなことになるのよ」


魔物が現れて混沌する会場、笑い合うほど平和だった空間は、人々の緊張が目に見えるほどの不安な空間となっていた。

すると、ロードリックの横に騎士の一人が来ては耳打ちをしては、ロードリックは頷く。


「レオンハルト。リリィという者が分かった」

「どこに」

「居場所は分からないが、二階から魔物との一緒に落ちたらしいが、なぜか砂になって消えたらしい」

「……」

「俺も見たが、何かしらの術によって、存在を消したもしくはどこかに移動したと思われるーーーお前が追っている魔術師とどこか似ていないか」

「……ああ、分かってる」

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