九話 帰宅

それから、時間の限り街中を歩いた。人に話しかけたり、建物を探してみたりとフィルは様々のことをやっていた。関係ないことをやっているように見えて、一個ずつ可能性を消しているのだろう。どれもこれも外れたという顔をしては、次々と回っていく。

有益な情報は最初の店でしか、無かったようだ。


「リリィさんここまでお付き合い、ありがとうございます」

「いいえ、俺の方が邪魔してついて行った訳ですし、こちらがありがとうございます」


お互いに礼を交わす。街で調査の終えた二人は、日が暮れる前に屋敷に帰ってきていた。


ありがたいことに、俺も収穫があった訳だ。

リリィは数ヶ月前に魔術師に会っていた。しかも、仕事も紹介されていた。

それを何の意味をするのかは、腹に刻まれた術が答えている。その、謎の魔術師が魂を移すという忌まわしい術をかけたのだと。

でも、コート描かれた紋様が分からなかったのが悔しいな。それ一つでだいぶ炙り出せるのに。


「ただいまっ」


丁度、同じようにレオンハルト達も帰ってきたようだ。レオンハルトの疲労した声、隊員の草や枝を体のあちこちにひっつけては砂埃を頭にかぶっていた。

血を流している者は一人もいなかったがあまりの惨状に、フィルが両手を震わせて空中を掻いた。


「森で何があったんですか」

「まぁ、色々ね、あって」


レオンハルトは言い訳しようがないと後頭部を撫でる。


「どうせ、魔物の縄張りを踏んだんだろ。雑に探査するとそうなる。足元をよく見ろ、縄張り近くは足跡とか食べた死骸が落ちているはずだ」


森に入る際は、ただ調査するだけだと思ってはならない。目的だけ意識せず地面や空に細心の注意を払わなくてなくては、いつのまにか魔物の縄張りに入っていたなんて良くあることだ。

あと小さな魔物の縄張りぐらいといって、油断してもいけない。圧倒的な数はどんな魔物でも、簡単に人を殺す脅威なのだから。

そんなことで隊を乱しているようなら、レオンハルトはもう一度勉強し直すべきである。


「そもそも日頃から細心の注意をしていれば、そん……」


イナミはハッと気がつき、辺りを見直した。

お前ごときが何言っているんだと、憐れみを含んだ奇妙な者を見る視線が自分に集まっている事に気がついたからだ。


なに、使用人ごときが騎士団に向かって言っているんだ。自分から自爆しにいくとか馬鹿すぎるだろ。


「っ……えっとだな、本に書いてありました」


苦しすぎる言い訳だ。肌を突き刺すような冷たい空気が流れてくる。


「そう、よく分かったね。魔物のこと詳しいんだね」


重苦しい中、最初に話したのはレオンハルト。まるで何も無かったかのように無心な笑顔をイナミに向ける。


「すっすいません、出過ぎ真似を、あの……」

「いいよ、言われて当然のことだし。皆、これからは森に入る際は気をつけるように」


『はい』と口を揃えて敬礼をする隊員。


「じゃあ、今日は解散で。明日の指示は副隊長伝えるから、それまで解散」


手を叩いては急かすように隊員を解散させるレオンハルトに、隊員達は返事をしてから荷物をまとめて各々帰っていく。


「さて、私たちも屋敷帰ろうか」

「はい……」

終始笑顔のレオンハルトがこれほど恐いと思ったのは初めてだった。

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