図書館で消えた俺
天川裕司
図書館で消えた俺
タイトル:図書館で消えた俺
いつもの図書館に来ていた。
すると、とても可愛い女の子を見つけた。
その子は誰かに話しかけるように、
本を読んでる人の背中にそっと触れていた。
その子が肩や背中に手を置くと、置かれた人は
ある1冊の本を必ず借りて行く。
そしてその可愛い子が書架の向こう側に消え、
誰も居なくなったのを見計らい、
俺はさっきの本を見に行った。
「ふぅん、この本かぁ」
タイトルは『向こう岸の恋人』。
見たこともない本だったが、なんとなく興味が惹かれる。
でもちょこっと読んでみたが、中身は普通の恋愛小説。
そして翌日。また俺はその子を見かけた。
でもその子と目が合った瞬間…
「見ィたァなぁあぁあ!!」
と追いかけてきて、猛スピードで逃げた俺。
逃げ回りながら「なんだあれは!なんだあれは!」
なんて心の中で連呼して、やっとたどり着いたのは
あの本がある書架の前。そして又その直後…
「うわっ!うわあぁあぁ!!」
本がひとりでに開き、中から手がニュッと出てきて、
俺はその本の中に入ってしまった。
それから後日。
俺はあの子と一緒になって、図書館利用者の
背中や肩に手を触れる仕事についていた。
肩や背中に手を触れるだけで、その人はあの本を借りていく気になるらしい。
たとえその日に借りなくても、それから数日後に必ず借りる。
そんなシステムになってたようだ。
よく見ると周りには、俺と似たような男女が数人、
透明の体をしたまま、利用者の肩や背中に手を触れている。
そう、俺たちの体は透明。普通の人には見えないんだ。
きっと彼らも俺と同じようにして、彼女に追いかけられた末、あの本に吸い込まれたクチなんだろう。
吸い込んだ後、彼女はとても優しかった。
1日の仕事を終えたら必ずご馳走を用意してくれ、
みんなをもてなし、読書会のような事もしてくれる。
俺を含めた男の霊は、みんな彼女に心酔するように惚れていた。
女の子の霊は彼女をお姉さんのように慕い、
いつも一緒になってキャッキャと騒いでる。
「まぁこの生活も悪くないよなぁ。日常、なんも無かったわけだし…」
俺は今、この図書館で幸せだ。
あとから気がついた事だけど、俺があの日手に取ったこの恋愛小説は、
巷じゃめちゃくちゃ人気だったらしい。
きっと彼女がこうして働いてるから
人気が出たのかなあ、なんて思ったりした。
いや彼女だけじゃなく、霊になった皆の働きもあって。
図書館で借りてく本の中に、もし人気の本があったなら、
得てしてこんなエピソード・輝く秘密のような出来事が、
本のページの裏側にひっそり隠れているかも…
もしかしたら書店でも同じような事が起きてるのかもね。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=W2BrvHrZlw0&t=7s
図書館で消えた俺 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます