第10話 地下古代遺跡

 長い石の階段を下ると、広大なドームの下に出た。明らかに祭壇だとわかる蒼い岩造りの建造物が奥に見える。辺りの気配をうかがったが、敵がいる様子はない。

 振り返ると息を切らしたジョゼフが座り込むところだった。傍らに立つキャメロンはいつもと変わりのない様子だが、体力は相当削られているはずだ。


 アドリアの隠れ家を出てから五日。何度も襲い来る敵(主に魔物)を撃退しながら、五十里の道のりを踏破してここまでたどり着いた。足が付くから宿には泊まれない。全行程が野宿だった。

 戦闘で受けた傷は回復薬で癒したが、粗食と野宿続きでは疲労がとれない。慣れている俺やキャメロンでもこたえるのだから、ジョゼフがそろそろ限界なのは当然だった。

 街道脇の畑で野良仕事をしていた老人に、人がめったに訪れない洞窟が近くにあると聞いたのはそんな時だ。ただの地下古代遺跡で、ダンジョンではないので冒険者も訪れない。何らかの聖なる力が宿っているのか、魔物の住処でもないという。

“だから冒険者のあんたたちが行ってもムダだよ”という意味で老人は教えてくれたのだが、一時の避難所として活用できると考え、やってきたのだ。


 祭壇脇の奥まった場所に焚き火を起こし、近くの地面にとっておきのシートを出して張った。キャメロンが「そんなシートがあるなら汚れないだろうから、この寝具を提供するよ」と例のマジックバックから出してきたいくつかのクッションを使って三人分の寝床を作る。

 ちくしょう、こんなのがあるのならさっさと出せよ。自分もしんどかっただろうに。


 さすがに携行食をそのまま食うのは飽きたので、湯を沸かして即席のナベにした。洞窟内に自生していたキノコ類もぶち込んで、塩と酒で味を整える。

「これは、なかなかうまいな」

「ええ、とても美味しいです。生き返りますね」

 キャメロンとジョゼフも口々に悦びの声を上げた。俺自身も久しぶりに温かい食事を腹に入れ、こわばっていた内臓が柔らかくほどける感覚があった。


 欲を言えば風呂に入りたいところだが、さすがにそいつは望むべくもない。また、そこまでリラックスすべきではないとも思われた。何しろ逃げのびる当てはまだ立っていないのだ。

 満腹してごろりと横になる。一瞬、不寝番を交互に務めるべきか考えたが、全員が疲れ過ぎている上、相変わらず敵の気配はない。ええい、ままよとそのまま寝ることにした。


 後から思えば、それは痛恨の油断だった。

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