第6話 ジョゼフという若者
しばらくして左手が完全復活したら、キャメロンは温水を手のひらから出し、俺の体に付着した血を洗い流してくれた。次に風魔法で服ごと乾かし、最後にシミ抜き魔法で整えてくれる。起き上がって携行した火酒を一口飲むと、まさしく生き返った気がした。
キャメロンとの約束どおりワイバーンの死骸から血抜きを行う。竜種の血液もそれなりの高値で売れるので少しもったいないのだが、マジックバッグを汚さないためには仕方ない。鮮度の高い状態をキープするため、十頭の死骸を魔法で丁寧にコーティングしてバッグに収納してもらった。
これでひとまず片づけ完了。さて、さらわれた色男の顔でも拝もうか。
ジョゼフは浅黒い肌の細身の若者だった。例の腕輪のおかげで体は無傷のようだが、身につけた衣類はボロボロだ。無精髭の伸びた顔には濃いクマが浮かび、疲労困憊なのが見て取れる。そりゃそうだろ、ワイバーンに囲まれて眠ることもままならず、飲まず食わずで耐えていたんだものな。目は虚ろで半分放心状態だが、よくぞ発狂しなかったものだ。
俺が名乗ってキャメロンを改めて紹介し、体調を尋ねるうちに落ち着いてきた。ややあって口を開く。
「助けてくれて本当にありがとうございます。もうダメだと何度も思いました。自分はそれなりに体力には自信があったんですが、あんな魔物が束になって来てしまうと、手も足も出ませんでした。いやあ、お二人はとんでもなく強いですね。感心しました」
やらかした話だけ聞いているとどんな阿呆かと思っていたが、ジョセフはそれなりに頭も回り、マナーも身につけた若僧のようだった。ま、それはそうか。単なる絶倫バカでは、女も寄りつかないだろう。
さて、戻るか…と言いたいところだが、そいつは無理だ。ジョゼフの所払いは解けていないのである。そこでアドリアが手を回した隠れ家に連れて行くことになっているのだが、人に見られるわけにはいかない。
俺は荷物の中からフード付きのマントと仮面を取り出し、ジョゼフに手渡した。
「そいつを身につけてくれ。あんたの顔を見られるわけにはいかないからな。隠れ家まで護衛する」
「隠れ家ってどこですか」
「ここから街道に戻って、三里ほど行った古民家だ。アドリアが待っている」
「アドリアが待っているんですか…」
喜ぶと思いきや、ジョゼフの顔に影が差した。
「どうした、恋人に会うのが嫌なのか」
「嫌というわけではないんですが…ちょっと今の体調では…」
歩きながらジョゼフが切れ切れに語った言葉をつなぎ合わせると、不始末が露顕して以来、当然ながらアドリアの当たりがキツいらしい。しかも、夜のサービスへの要求がエスカレートしており、ノーマルな体調でもこたえるという。今の体調では到底耐えられそうにない、というわけだ。
俺は黙ってキャメロンの顔を見た。キャメロンは半笑いで首をすくめる。“自業自得だよな(苦笑)”“そうだよね(笑)”という会話が暗黙の内に成立した。
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