第4話 キャメロンとの邂逅

 身支度を整え、階下に降りると人相の悪い一団が俺を取り囲んだ。

「よう、加勢するぜ、旦那。前衛なら任せてくれ。取り分は三割、いや、二割でどうだ」

「拙僧はいささか回復術に覚えがござる。連れてまいれば必ずや役に立つであろうぞ」

「あたいは魔法使い。火魔術と風魔術が得意だから、ワイバーン退治には打って付けだよ。何なら夜のお相手も…ウフフ」

 美味しい話を聞きつけたハゲタカ冒険者どもだ。たぶん連れて行っても何の役にも立たないだろう。

「悪いな、俺はいつもソロなんだ。死んだ祖父さんの遺言でね。集団戦には慣れてないから、今日も一人で行くよ」

 彼らは信じられないとばかり目を剥いて騒ぎ立てた。ワイバーン十頭に一人で立ち向かうなんて自殺行為だ、自信が過ぎると早死にするぜ、云々。

 まったくもって大きなお世話だ。もちろん簡単ではないだろうが、魔物の群れの単独撃破なら何度か経験がある。むしろ敵味方が入り乱れての接近戦になれば、よほど息の合う相手でなければ単なる足手まといになってしまう。


 そのままハゲタカどもを相手にせず、店を出たところで再び声をかけられた。

「よう、久しぶりだね(笑)」

 ん、この声は…。向き直ってみると、とぼけた笑顔にぶつかった。見慣れた大斧を担ぎ、革コートに胸当て、バギーパンツと革長靴で身を固め、長身を店の外壁にもたれかからせている。

 キャメロン・ギルシュタット。一見、少年のような風貌だが、魔導戦士としての腕は立つ。かつてパーティーを何度か組んだことがあり、こいつなら間違いなく息は合う。

「キャメロン、なんでこんなところにいるんだ?」

「雇われ仕事の帰り道さ。さっきこの町に着いて、店で遅い朝食を食っていたら、あんたが降りてきて連中に囲まれてた。その辺の奴に大体の話を聞いて、こりゃ僕の出番かな、と思って店の前で待っていたんだ」

 ふむ、話の内容に特に怪しい点はないな。

「組むのはいいが、条件次第だ。いくら欲しい?」

「そうだな、報酬は金貨七十枚と聞いたから、一割の金貨七枚でどうだい。ワイバーンの死骸は対処が面倒だから、僕は要らないよ」

「いいだろう。それと、金貨一枚追加するから、おまえのマジックバッグを使わせてくれよ」

 どういういきさつで手に入れたのか、こいつは異常に容量の大きい魔法袋を所持しているのだ。中は時間が止まった亜空間になっていて、重量物でもかさばる品でも関係なく持ち運びできる。おそらく稀少な古代魔道具だろう。馬車二台分の荷物くらいは余裕で入るから、ワイバーン十頭の死骸運搬も容易なはずだ。ただ、キャメロンは妙に潔癖症で、魔法袋に魔物の死骸などは入れたがらない。

 案の定、渋い顔をされたが、それも即席パーティーを組む条件のうちと見てとったらしく、きっちり血抜きをしてくれるならOK、と俺の頼みを受け入れた。


 早速連れ立って、アドリアから教わったとおり西に向かう。

 キャメロンのどうでもいい雑談を適当に聞き流しながら街道を五里ほど歩いた。気の抜けたばかばかしい話ばかりだったが、三年ほど会わないうちに一人で餓狼山脈を越え、はるか東のロンバルト王国まで旅をした体験談も混じっていた。自慢していい偉業と言えるが、キャメロンは淡々と旅先の馬鹿話を語った。

 目印の廃屋を右に折れ、山へと続く脇道に入る。峠を越えると羽が空気を切る風音としわがれた鳴き声が複数聞こえた。

 ワイバーンの群れが近い。

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