Nest Minus Zero

Сара Котова

00 肇の世界

 夢の中で夢を見ることは可能だろうか? それが可能であれば、どのように? その条件、その環境、そして―――どうなる? 今日の人類は価値のない課題として片付けるだろうが、いつの日か、真剣に取り組む日がやってくる。

 その時には、資源、経済、人種、政治―――全ての問題が解決している。その時には、真の《循環都市》と、それを象徴する《頂点》が完成している。その時には、人類は・・・真理を探し始める。

 曖昧な真理を探す手法は様々だ。数学を用いた理論の構築、科学を用いた試行の連続、そして、夢という媒体も例外ではない。就寝時に観る夢は、神経科学が発達した遥か未来の世界でも不明な点が多く存在する。皮肉にも、それだけ―――夢を抱いてしまう。

 これだけ話しても信じられないだろうが、私は《循環都市》に住む人間であることを断っておく。名前は████、今の人類と同じ外観をした可愛らしい少女である。出身は・・・地形で言えばアメリカ合衆国の北部に該当する。言語は今と大きく異なるが、この文章を書いて〝もらえる〟程度には詳しくなった。

 残念ながら、ここへ来た手段は時空を超える装置や車両ではない。戯言に聞こえるだろうが、私は真実を求めるために行われた実験―――《多重明晰夢》によって、この世界で目を覚ました。計画の目的は単純だ、無限の再帰―――ネストされた夢を体験することで、人間が秘める潜在的な能力や真理と呼ばれる何かを追求する。宗教を知る貴方は〝地獄〟と揶揄するかもしれないが、退屈な未来では過酷な世界へ自ら足を踏み入れる輩が多い。その一人が、私だった。

 結論から言えば、少なくとも、私は任務に失敗した。多少の成果は得られたかもしれないが、私の場合は〝夢の中で夢を見る〟という下流が存在せず、何故か、〝ネストされた夢を登る〟という上流から始まった。つまり、自由に世界を造る一切の余裕がなく、元の世界へ終着するまでの段階が把握できないという―――文字通りの〝地獄〟を体験した。だが、苦痛ではなかった。人生が2回ぐらい楽しめると言えば、聞こえが良いだろう。

 この文章は、今までの記録を整理するために存在する。翻訳者によっては論文らしく書かれたり、物語らしく描かれたりするだろう。これを夢の世界で公開するのは本当に無意味だと自覚している。しかし、もしも・・・この世界が明日も、来週も、来年も、それ以上に、続くのであれば・・・。

 深く考えるのは止すべきだ。こんな性格だから変な世界に迷い込んでしまうのだ。さて―――ここから先は、不思議な世界が幕を開ける。私と同じように、深い眠りへ、深い然りへ。実験室で眠りに就くとき、科学者は私に呟いた。

 「―――さようなら、世界。」

 「―――閉じ込める、世界。」

 〝―――こんにちは、世界。〟

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