眠い……

HerrHirsch

起こす!

 現在時刻0700。朝食準備よし。本日のメニューは昨日の肉じゃがの残りと親から送られてきたコシヒカリ、そして目玉焼きと焼きベーコンに、キュウリとトマトを添えたもの。

 すでに俺の準備は完了している。では、なぜ俺は冷や汗を垂らしているのか。それは、今から始まるこの戦いの壮絶さをイメージしているからである。

 我が愛しの、妹。現在15歳、中学校3年生。色々と育ってきてそろそろ自立して兄離れも来るのかなと、少々寂しくしていた以前の俺はもういない。こいつ、まるで成長せん。発育は良いのに何故精神の方はここまで子供なのだ。

 しっかりと3回ノックをして、

「入るぞ~」

と警告を入れて、10秒待つ。思春期女子に対する配慮としてはこれでも足りないくらいではないかと思うこともしばしばなのだが、こいつに関してはもはやノックをする必要性すら疑問が生じるレベルである。

 ドアノブを優しく捻り、音をあまり出さないように扉を開ければ、

「く~…か~…」

奴のいびきが鼓膜を激しく揺らす。もはや脳震盪になりそうなレベルででかいいびきだ。まぁ、脳震盪になる以前にくも膜下出血レベルの頭痛がしてくるほどの寝相の悪さが網膜を刺激し、俺はこめかみを強く抑える。

 へそ丸出しは当然のこと、まだ2月だというのに両袖をまくり、布団は当然のように床を温め、シーツは四隅の内3つをカーバーできず、ついでと言わんばかりにパンツも丸出しなのだ。そのピンク色の煽情的なそれはなんなのだ。お兄ちゃんはトランクスを進めるぞ、何故なら見られても何ら問題ないからだ。

「起きろ~」

 取り敢えず耳元で、囁くように言ってやる。これで置きてくれれば儲けものなのだが、まぁ早々簡単に行くわけもなく、鼓膜を揺らすいびきの音は、一切揺らぐことはない。

「起きろ!朝だぞ!」

 叫んでみる。ご近所迷惑にならない程度に。ちなみにだが、目覚まし時計は普通に効果が無かったのでつけさせるのをやめた。ご近所迷惑レベルのデシベル数で鳴らしても、こ奴には子守歌でしかなかったらしい。

「……。」

 やはり、ここまでは効果なし。一つ、ため息をば吐いて、今日はどうしてくれようかと腕を組んで対策を考える。

 仕方ない。起きてセクハラだのなんだのと言う奴でも無いし、武力行使に移るしかあるまい。タイムリミットは刻々と迫っているのだ。まず、へその縁を人差し指でそーっとなぞってみる。こいつの感覚神経が敏感な所だ。かなり卑猥な触り方だと思うのだが、こいつは手でぺしっと払いのけようとするだけで、意識を覚醒させようとはしない。次。

 腹を揉みしだいてみる。腹筋を刺激し、筋肉と神経を直接に攻撃する。起きている時にはお仕置きとして非常に有効なのだが、残念ながら身を捻らせるだけで他に有意な反応はない。というかこいつ、脂肪付いてきたな。ちょっと栄養バランスを考え直すか……。次。

 取り敢えずこいつは暑がりである。布団を大量に載せて、その上で俺も乗っかる。重量・熱量の二重攻撃によって、こいつはついに眉を顰める。が、それだけ。残念ながら相当に深い眠りらしく、うなされるばかりで覚醒へ近づいているということは一切ないようだ。次。

 綿棒を持ってきて耳掃除してみる。流石に寝ながら耳掃除をされて違和感を持たない人間は居まい。って、かなり溜まっている。きったねぇ……。嗅いでみれば、臭い。うーん、ストレスも溜まっているのだろうか。両耳をしっかりほじくり返してみたものの、耳の通りは良くなったが幸せそうな顔をして眠っていやがる。次。

 今度は腋をくすぐってみる。あと首も。こいつは昔からかなりくすぐりには弱い。くすぐってやれば身を捻らせたり布団にもぐったりして逃れようとするので、馬乗りになって左手で頭の上に両手を固定してくすぐり続ける。びくびくと痙攣しながら呼吸も荒くなり、脚をバタバタさせて抵抗してくるが、それでも攻撃を続行する。なんか若干楽しくなってきたが、あくまでも起こすことが目的だということをしっかり再認識して、反応が薄いことを確認してやめる。

 ……やるしかないか。本当に最終手段なのだが、今日はかなり手強そうだ。既に時計の長身は3を指している。もはや手段を選んでいる暇はない。パンツを容赦なく降ろし、脚を固定し、右中指を唾液で濡らし、左手で奴の肛門を広げ、ぶっさす。浣腸である。

「んひっ」

 刺せばびくんと全身を反らせ、ぷるぷると震えて呼吸をさらに荒くさせるが、しかしながらまだ眠りから覚めたわけではなさそうだ。中指から伝わってくる暖かい感触に顔をゆがめながら、ぐりぐりと肛門を押し広げ、奥深くを大きく刺激する。

「あっ…ぐっ…うっ…」

 喘ぎながら体を捻らせて中指から逃れようとするが、決して逃さない。が、それでもまだ寝る気のようだ。流石に困ってきた。中指を抜いて、ティッシュで肛門周りを拭き取り、手を丁寧に洗浄する。それでも臭い。本当にストレスが溜まっているようだと心配しながら、それでもなお奴が起きないという現実に頭を抱える。

 再び妹の部屋へ場所を戻して、うつ伏せでもなおいびきをかき続ける半裸の縁者を見て、俺は決意する。徹底的に、起こす。指をポキポキと鳴らし、腰に跨り、奴の尻を狙いに捉える。そして、右手を振り上げて、全力で快音を鳴らす。

「あがっ!」

 べぢん、という鈍く跳ねる音が響く。

「起きたか?」

 ……返答はない。もう一度、今度は左の尻に叩きつける。

「あぐぅ…」

 だが、それでも起きる気はないようだ。……いや、は?人間は痛覚に敏感だ。いつものこいつなら、流石に全力で尻をぶっ叩けば起きた。が、今日はまるで起きようとしない。

 ……やらねばならないのか……。俺は、綿棒を再び持ち出し、妹を仰向けにさせて、その鼻腔を狙う。鼻腔の奥深く。そこは非常にデリケートな部分だ。ここを刺激すれば、人間誰しも嗚咽し、涙を流す。

「ぉえっ、ぶえっくし!」

 こいつも例外ではないようで、しっかり生理反応を起こしてくれた。……なぁ、何で起きない?刻は25分を刻んでいる。これは…水責めするか……。バケツを持ってきて、水をためて、ベットの上に置き、頭を押し付ける。

「ごぼぼぼ……んぐっ、ぐはぅ」

 やっと……やっとだ。

「お、お兄ちゃん?!殺す気?!」

 妹の眼は怯えている。まぁ流石に水責めはやりすぎな気もするけれど、これが最適解だったと思う。

「お前が起きないから永眠させてやろうかと」

「やめてよ!お兄ちゃんとえっちするまでは死ねないの!」

「あほか」

「あだっ……ってあの、お兄ちゃん……?これ、どういう…」

 股を抑えて、一気に朱に頬を染める妹。

「ん?まさぐった」

「おにいのえっち!変態!猥褻野郎ー!最高だよ」

「お前まじさっさと起きろ。次は覚醒剤ぶち込むからな」

「普通に怖いよ」

「俺はお前の睡眠への執着が怖えよ。まじで永眠すんじゃねぇぞ」

「はいはい、ご飯食べよ~」

「おう、さっさとしろよ」

 こうして何とか妹を起こして、俺は思う。

「……こいつの夫になる奴は大変だな」

 俺は絶対に御免だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠い…… HerrHirsch @HerrHirsch

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ