~夢の絵の具~(『夢時代』より)

天川裕司

~夢の絵の具~(『夢時代』より)

~夢の絵の具~

私が以前によく通っていた教会のメンバーと一緒に、どこかキャンプを兼ねてか、見知らぬ場所に居た。教会が実家の長男はよく私に話し掛け、今の私の状況等こと細かに尋ねる。私は、その詰問にとりわけ嫌気も差さず、皆で目的地を探していたのであろうか、前へ、前へ、と共に歩いてゆく。子供が私達の周りに何人か居た。以前、夢で出て来た栄子が又出て来て、体裁、内容、共に以前とは少し違っていた。何か少し、私の立場に近い気がした。もう少しで、もしかしたら付き合える?結婚出来るのか、と期待半分、嬉しくなっていた。

ずんずんずんずんと狭い通路を歩き、進んでゆく。子供はいつもの様に妙にはしゃぎ回り、自分の昔の教会での振る舞いを見ている気分になる。どこに向かっているのか、未だはっきりとしないが、皆も私も、余りそのような事は気にせず、とにかく今喋り合っているこの時間を大事にしたい、といったような調子で居た。栄子は例によって列の後方に居たり、凄く前方に居たりと、余り私の傍には居てくれない。とにかく忙しく、走り回る娘だ。そう、一本の通路を我々は渡っており、その通路の周りには私達が今まで見て来た、経験して来た、物や場所が、まるで展示会場に展示されている物の様に並べられていて、時折、「あーあれなつかしいなァ」等と私が言えば、すかさず長男が説明してくれ、「今じゃ~になっているんやけどな、…」と諭してくれる。その説明の内で、確か一度、その長男が昔使っていた部屋を説明してくれていた。私はとりわけ嬉しいでもないが、きっと栄子が居て、少々の懐かしさもあり、気分は比較的良かったように思う。なにしろ栄子とは以前から色々な経験、経過、独りでのすったもんだがある為、今回も信用出来なかったのだろう。とにかく、上手い形で終わらせて欲しかった。私はそれでも栄子が好きだったのだ。

(今現実に於いて、栄子にあんな手紙を書いた後、栄子の実家へ行き、栄子の両親に「この前の縁談の話は白紙に戻して…」と言い、電話でも栄子に直接「…もう付き合えない。結婚など出来ない。この前、縁談話を持ち掛けられてOKしたのは、遥々遠くから家(うち)まで来てくれた高齢の栄子ちゃんの両親を気遣って、のこと…」等と更に丁重に詫びて、栄子を自分との結婚から遥か遠くへと押しやった経過を思う以上、私は嫉妬と焦燥と残念で苦しく、堪らなくなる。何とかして一緒になりたいと願っているのだ。こんな状態で第三者等が出て来て栄子に別の男と結婚でもされたら、その栄子に二度と会わないのは当然で、人生にも張りがなくなる、というものだった。)

今度のこの「良い予感」に賭けてみたい、という気持ちになった。

どうしてああ栄子は列の前方へパタパタ、後方へバタバタ、走り回って、しずしずと私の横に留(とど)まって一緒に、静かに景色でも見て歩いてくれないのか、と、どうしようもない気持ちを覚えながら、仕方なく私はその長男と居る。私の周りに来る女子は皆忙しい奴等だ、いつも走り回っていやがる。社会に出て一番初めに付き合ったあの娘だけが、唯一落ち着いていて、私の隣に居てくれた。私の肩や胸にももたれてくれて、川に浮かべた舟にも、暫く一緒に乗ってくれた。静かな人であって、その後に出会った娘等とは違っていた。私に女を見る目がなかった為に、その初めの娘を棒に振ってしまって、私は今こんな状態に置かれているのかも知れない、等と少々様々、思い返す事になる。忙しい女、キャリアウーマンの様な女、を私はやはり嫌った。見てくれに騙されない、と徐々に、心に誓ったものだった。この栄子もそんなキャリアウーマンらしい気質を備えていた。私の隣には一寸として居ない。居ても何か越えられない壁のようなものが、常にあるのを覚える。そんな中でも何か、今回の栄子は少々色々と私に話し掛けてくれていた様だったが、殆ど覚えちゃいない。恐らくその長男と同じく場所の説明や、時に私とだけの経験の思い出話等した様子だったが、進展を見ないものだった。結婚とは、好いても居ない相手とでも相手の経済力を見て出来るものだ、と思っていたが、この栄子は私の事などまるで好いて居ない、といった様子だった。

私はその通路を渡り切って別の場所へ出たのか、環境が変わっていた。父方の従兄弟の叔母ちゃんと、大阪の下町の様な場所で、駄菓子屋の様な建物を前にして、その叔母ちゃんの息子の事について話していた。その従兄弟のお兄ちゃん達は昔TVのCMに出て居り、その映像が久しぶりに又TVで流れたのを少し以前に私だけが見ていて、その中で映っていたお兄ちゃんの顔や体裁が今よりも全く格好良く惹かれるものがあった事を話題にしていた。その叔母ちゃんも「今よりも、何か(当時の方が)やわらかくて良い感じがするわ」と思い出しながら笑顔で私に応え、「そりゃ当然やろう、若さもあるし…」と私は心中ですぐさま覚えながら実際にも叔母ちゃんに話していた。私と叔母ちゃんの話しているそのやや右後方で、TV番組のロケの様なものをしており、女の客が会場の客の殆どを占めている様子で、何か、一緒にTV画面に映る模様(映像)を見ながらスタッフのパフォーマンスに喜んで絶叫していた。詰らない仕掛けのパフォーマンスで、カメラを上下させてまるでジェットコースターに乗っているような、バンジージャンプを味わっているかのように錯覚を覚えさせるような、ものだった。「詰らないことで笑っているな(驚いているな)」と私は苦笑しながらそれでも納得していた。その従兄弟の叔母ちゃんとの話の中で、当時お兄ちゃんと一緒にCMに出演していた役者の顔を見ながら「これは誰か?」という内容で盛り上がり、叔母ちゃんは当然の様に「これはアンタ渡瀬恒彦や」とごり押ししたが私は「いや待て、ちがうんじゃ…?もっと別の、あの人じゃないかえ?ンー…くそ、名前が出てこん…、顔は知ってるのに。」とやり取りして、結局、それでも「その人は渡瀬恒彦」という事に落ち着いた。今から思えばその人の顔は少々、従兄弟の叔父ちゃんである私の父の一つ上の兄貴の様だった、と想像出来る。又、石倉三郎にも似ていた。

暫くして、その女性客と司会者(明石家さんまだった気もする)のワイワイやってる声を尻目に、私はついでの様に誰か大切な人である兄さんに会いに行った。会いに行く途中、今度は母方の従兄弟の尚人が余り姿を見せないが、笑いながら私に会釈したのを覚えている。場所は大理石を張った床と、金色に光るシャンデリアが辺りを照らす少々高級ホテルのようであり、私はロビーから少し外れた処にあるエレベーターに乗り込もうとしていた様である。しかし旅館の様な部屋もあり、私はその一室を借りていた。自分のプライベートである空間を確保した上で、私はその「大切な人」に会いに行った。その人とは男である。その人とは、誰かは忘れたが、余り大切ではない人の兄さんだった。その兄さんに会い、「皆が居る場所」を目的地として、そこへ一緒に行こうと連れ立った。その兄さんは途中でそわそわし始め、小便をしたい様子だった。私は兄さんを連れて小便をさせにトイレへ入った。一度、兄さんが小便出来ないトイレへ入ってしまい、又違うトイレを探し出し入り直す。この兄さんは高齢者の様に障害を患っていた。誰かに付き添われ、介助をして貰わなければ小便も出来ない、そんな状態だったのだ。私はその事に、兄さんを連れていながら兄さんから「小便をしたい」と言われるまで気付かなかった。又その兄さんは自分の主張をいつも遠回しに言う癖があり、私は少々苛立ったが、抑えて、兄さんを介助していた。

トイレを探し出す途中で私は、自分の煙草とライターをそのホテルの中のオープンカフェの様な店のテーブルに置き忘れていた事に気付き、丁度柱の陰から尚人の姿が見えた為、「すまん、その俺の煙草、見張っててくれへん!?」と頼んだが、「何で俺がそんなことしなあかんの?(苦笑)」と断られている。場面が転々としたが、最後の場所では栄子は出て来ず、まるで関係のない状況に私は居た。私は兄さんが小便し終えた後トイレから連れ出し、又、目的地へと共に急いだ。

その辺りで、まるでパレットに一つ一つ落とした絵の具の色が水に溶け、融解する様に何がどの色かわからなくなった模様を確認したあと目が覚めた。

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