~夢と強さ~(『夢時代』より)

天川裕司

~夢と強さ~(『夢時代』より)

~夢と強さ~

看護婦のS(女性)、介護士のW(女性)、新撰組の斎藤一、(役者の牧瀬里穂が演じる)沖田総司、土方歳三、近藤勇、他隊士、荒木氏の漫画「JOJOの奇妙な冒険」の内の登場人物〝ジョセフ・ジョースター〟、器量の悪い友人、等、各々面々が、出てくる順序を交差させながらそれでも一つのレールに沿うようにして登場する。

眠る前に私は、母校の〝やりサー〟とかいうサークルの情報をネットで見ており、思わず、嫉妬に燃え上がり、いやらしい悶絶を心に宿していた。その影響があったのかも知れない。内の一場面で私は女を欲した。

私は看護婦のSと、Wと、器量の悪い友人を連れて一緒にドライブへ行こうと約束をし、看護婦のSが「ちょっと用事があるから、終るまで待っててナ。そうだ、待ち合わせは昼前の十一時頃にしようか?」と提案し、Wは端(はな)からOKで、私と友人は断れる筈もなく快諾した。私と友人は私の車で一緒にどこかイタリア風味の漂う中央に噴水がある広場に来て二人をそこで待った。地面は灰色のレンガ張りで、少々古風を思わせたが、その周囲は緑に囲まれ、これから来る快楽と誘惑の予感を醸し出し、私達二人はしばし、それぞれのロマンスに浸っていた様だった。待っている内に私は独りになり、向こうで声がし始めた。少々、活気付いた声である。或る目的を持った集団が私の前に現れ、私は瞬時に新撰組隊士と成っていた。あのダンダラの羽織は恐らく私は着ていなかった様に思うが、私は内で中堅扱いの様で、私の周りでは斎藤一が確か幅を利かしていた。新米隊士が又私の周りに居て、ヤンヤと可愛く騒ぐ中、目先に飛び込んだのは老齢の隊士こと〝ジョセフ・ジョースター〟であった。私は誰かとその老人の年齢を当てようとして、隊の人員名簿を探り、今年の年数と彼の生年月日とを以て八十歳だと言い当て、誰も疑う者はなかった。私は静かにドアを開けて、テーブルを前にして何かそろばんの様な物を弾いている隊士等の内の一人であるその座っている老人の背後に忍び寄り、〝今回の任務〟は辞退するようにと話し掛けた。すると、老人は途端に険相を以て私を睨みつけ、「そんなことは出来ない。君は私を老人だとして馬鹿にするつもりか?」と一歩間違えれば斬りつけて来る程の眼差しで私を威嚇した。真剣にやり合えば私が若いのと、夢ながらに密かに私の腕の方が上をゆくのが奏して私が勝つ事は予測出来たが、無駄な争いはしたくないとしてその場を丸く収めようと、老人が納得出来るような説得を始め、先程の私に老人が見せた険相、威嚇、を凌駕する程の真剣な表情と雄弁を以て刀を左手に置いて話し出す。

「確かにあなたの言われる事は最もで、隊士の内の一人なら誰でもそう言い奮起して任務に就くだろう。しかし状況と結果とを考えて欲しい。あなたの力はまだまだこの組には必要なのだ。今後の任務にあなたの力が必要であるのにも拘わらず、ここであなたがその私欲私情を以て勝手をし、その命を落としてしまえば、あなたは結果的に今後の任務を放棄した事に成る。それに周りの隊士の覇気にも配慮して欲しい。まだ若い隊士は僕の周りにもあなたの周りにも沢山居るでしょう。これ等の内の者であなたの様な人の長年のやる気に感銘を受ける毎日を以て、日々の鍛錬と過酷な任務に耐えている事実だってあるのです、ここであなたが自刃するように命を落としてしまえばその、それ等の覇気さえなくなってしまう。あなたが与える覇気はあなただけのものなんです。勘違いしないで欲しい。…」

等と一点の曇りもなく話した後で老人こと〝ジョセフ・ジョースター〟は暫く私の顔を、微動だにせず睨む様にして見詰めて、こくりと頷き、何も言わなくなった。受諾した様だった。土方さんと近藤さんは私の前に余り現れず、ちらと物の陰から容姿や刀の柄先、羽織の裾、等を見せるだけで、後は声と雰囲気しか残さず、唯、居る、という事だけを私に突き付ける様子だった。牧瀬扮する沖田君は映画「幕末純情伝」の内での躍動の如く、目前で少々はしゃぎ回っているが、私とは余り関係が無い様で、やはり幅を利かせていたのは斎藤一である。この男の一言で大抵何もかもが一転、一変する、といったような、そんな様子だった。まるで私のそこでの仕事は、その〝ジョセフ・ジョースター〟を説得することだったように幕引きし、そそくさとそのドアを出て、又待ち合わせの場所へと恐らく戻って行った。待ち合わせ場所には、変わらず器量の悪い友人が動かないで待ってくれていた。そよそよと、優しく涼しい風が周りの緑を揺らして吹いていた。小鳥も少し遠くでチチ、と鳴いていた様な気がする。

 私達はどうやらSとWと既にドライブ中の様子で、某公園の植木に囲まれた(公園の中へと続く)少々長く蛇行した階段で皆下り、一度往生していた。Sの車一台に恐らく皆を詰め込んでドライブしていた様子だが、そのSの車が雑木林の様な生垣仕立ての植え込みに突っ込んでしまい、にっちもさっちも行かなくなった様だった。どうにかしようと算段していた最中で私は、女が為せる頼りなさだな、等と心中で呟きながらそれでも早く立て直してやろうと、奮戦した。見るとかなりの突っ込み具合で、何をどうすればこんな状態になるのか、という程車は地面に九〇度の角度で真っ逆様に立って居り、周囲の植木に支えられて最後まで(下まで)は落ちて行かなかった、という様な態である。車から下りた四人はその車体の様子と雑木林を眺めている。いつの間にか車体をSが脱出可能な状態まで立て直して、最後の仕上げ、車のタイヤを道路に上手く接面させる事を試み、これは私とSとで、それ程難を有さずにし終える事が出来た。友人とWはその時何もしていなかった。努力、尽力していたのは私とSだけである。

(その辺りではっと目が覚める)

 どうも最近の私の夢には、女がよく出て来る。何か、不満でも溜まっているのかも知れないと思い返してみるが、もっと深いものがその奥に在る様子である。一生をかけても償い切れない罪と、男と女というもって生まれた宿命を何等かの形で克服し、煩悩を凌駕する覚悟とがひっそり煌めいて、私を永遠に脅し続ける様子である。誰も何も教えてくれぬが、この様な夢が私の内陣で宙返り翻りして、一番正直な声を聞かせてくれる。切って捨てなければならない「生きる強さ」もあるのではないかと、私は密かに思う。



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