美術部の天才に放課後ヌードデッサンされてます
私犀ペナ
第1話 パンツ一丁で椅子の上に立つのはしんどい
俺、
小学二年生の時、授業参観の日に自分の将来の夢を発表するという授業があった。
そこで俺が言ったことだ。
俺が漫画にハマったのは、イタズラ王を目指して旅をする児童書と出会ったのがキッカケだ。
俺もこんな風に絵を描いて、ストーリーを作ってみたい。そう思うようになった。
それから月一のお小遣いで、貯金もせずに漫画を買い漁った。
当時小学生で、お小遣いもそこまで多くなかったので、新品は買えなかった。人気な作品なんかは中古が滅多に出ないし、たまに間の巻が抜けていたりして続きが買えないこともあった。
今は高校生になったし、アルバイトも始めた。新品を買うだけのお金は充分にある。けど、昔の癖のようなもので、やっぱり中古にないか確認してしまう。
でも、欲しい本が中古になかったら、新品を買うと言う選択肢が俺にはある。
将来の夢として掲げた漫画家。
だが俺には致命的な欠点があった。
それは、絵がとてつもなく下手だということ。
美術の授業で上履きのデッサンがあった。俺は真面目に丁寧に描いたつもりなのだが、隣の席の女の子から、なにそれ? と普通に訊かれてしまった。
手のデッサンをすれば、何かよくわからないバランスのおかしい、まるでエイリアンのような手が出来上がった。
これには美術の先生も苦笑い。
同情で合格点は出してくれたが、絵の上手い人たちに比べると遥かに劣っていた。足元にも及ばない。底辺も底辺。
中学生になってから、思春期ということもあって、次第に絵の練習がキツくなってきた。
いつまで経っても成長しない自分に嫌気が差し、俺は美術部を退部した。
ストーリーは絵だけじゃない。
文章でもいける。
中学の時の俺は酷い迷走っぷりだった。
漫画家を諦め、小説家になろうとしていたのだから。
まぁ、もちろん。絵を中途半端で投げ出した俺に小説家になんてなれるわけもなかった。
今思えば中学三年間、ドブに捨てたようなものだったな。
あの時、諦めずに三年間必死に絵の練習をしていたら、少しは上達したのだろうか。
「動かないで」
「はい……」
ほんと、夏で良かったよ。これが冬だったら今頃俺は凍死していただろう。
放課後の美術室。
他の部員たちは既に帰った後。
顧問から戸締りよろしくと鍵を渡され、そして俺は……。
パンツ一丁で椅子の上に立っている。
かれこれ三十分は経っただろうか。
そろそろ足が怠くなってきた。
ポーズは特になく、ただ起立しているだけだが、ずっと動かず立ちっぱなしなので頭に血が上らない。
まだ終わらないのだろうか。
「猫背になってきてる。直して」
「はい……」
真顔で見つめられ、俺は背筋を伸ばした。
スケッチブックに鉛筆で俺の裸体をデッサン中の彼女は、名前を
この美術部において、彼女より上手い部員はいない。
数々の賞を総なめしたとか。俺はあまり詳しくは知らないが、彼女の才は小学から既に発揮されていたらしい。
何でも全ての技法を見ただけで真似ることができ、見たことない風景や人物をあたかも知っているように緻密に描くのだとか。
小学校から高校まで一緒だった徳永さんが言ってたのだから間違いないのだろう。
美術部員の間で保坂さんは変人と呼ばれている。
絵の実力の他に彼女は変わっているからだ。
急に黒髪だったのを真っ白に染めて来たり、コンクールに白紙のまま出したり、一日中、授業も受けずに美術室にこもって絵を描いていたり、極め付けは、一度も話したことのない女子生徒にお弁当を作って来て、そのお弁当を食べている姿をスケッチブックに描いたりと、彼女はよくわからないことをする。
だから、部員や同級生たちから陰で変人だの奇人だの呼ばれている。
あの子に関わらない方が良い。
変わり者というのはどうしても受け入れ難く、人が離れていく。
そんな彼女に、まさか俺がヌードモデルをすることになるとは……。
まだ終わらないのかな。
パンツ一丁でいるせいか、トイレに行きたくなってきた。
「また猫背、直して」
「はい……」
スケッチブックから覗く保坂さんの目は全体的にやる気がなく、なのに妙な威圧があって、俺はトイレに行きたい旨を伝えることができなかった。
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