或る日の合コン!
崔 梨遙(再)
1話完結:2300字
それは、僕が30代半ばだった頃。僕は、歌もギターも下手だったが、気が向いたら街へ弾き語りに行っていた。道で大声で歌うとストレスの発散になる。僕の弾き語りはストレス発散、気分転換、自己満足だった。足を止めてくれる人は極めて少ない。だけど、そんなことはどうでもいい。しかし、中には足を止めてくれる人もいる。足を止めてくれるのはだいたい女性だ。その日も、僕と同世代の女性2人組が僕の前に座り込んだ。歌い終わると、話しかけられた。
女性陣は、僕より少し年下の里美、スレンダーで茶髪は肩の上。酔っ払っていてハイテンションだった。そして、里美より少し年上でややぽっちゃりの靖子。どちらもビジュアルには恵まれていなかった。雑談が始まった。雑談はスグに恋愛の話になった。女性陣は、今、恋人がいないらしい。2人は、派遣なのか社員なのかわからないが工場で働いているとのことだった。とにかく、出会いが欲しいということだった。
「崔さんが私と付き合ってくれたらいいんですよ-!」
酔っ払った里美が、突拍子もないことを言い出した。
「いやいや、僕には彼女がいるから」
「なんや、つまんないなぁ」
「じゃあ、崔さん、合コンをセッティングしてくださいよ」
「そうですよ、崔さんが合コンをセッティングしてくれたらいいんですよ」
「えー! なんでそうなるの?」
「お願いしますよ、会社と自宅の往復だし、最近は合コンのお誘いも無いし、出会いが欲しいんですよ」
「いやー! ごめん、それは面倒臭いわぁ」
「じゃあ、崔さん、やっぱり私と付き合ってくださいよ」
「だから、僕には彼女がいるから」
「崔さんが付き合ってくれるか? 合コンをセッティングしてくれるか? どちらかでお願いします」
「なんで、通りすがりの弾き語りのお兄ちゃんに合コンをお願いするねん?」
「だって、崔さん、良い人みたいだし」
「いや、悪人と言われるよりはええけど。それでも合コンはアカンで」
「なんでダメなんですか?」
「だから、面倒臭いからやって言うてるやんか」
「お願いします! 崔さん」
「崔さん、お願い!」
「わかった、合コンのセッティングをするわ」
「やったー! よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
押しに負けて、僕は合コンのセッティングをすることになった。仕方なく、僕は知人の堀田さん(イケメン)を呼んだ。もう1人は、都合が悪くて来られないということだった。2対2だが、僕には彼女がいるので事実上は2対1、これでいいのか? 僕は里美に連絡した。
「次の土曜やったら、イケメン1人しか連れて来られへんねん。2人いた方がええやろ? 次の土曜はやめて、延期する? イケメン2人が揃うまで延期」
「崔さん、打ち合わせしましょう!」
「打ち合わせ?」
「どこに行けばいいですか?」
「ほな、○○駅でもいい?」
「はい、行きます」
里美が、“寿司が食べたい”というので、回らない寿司屋に連れて行ったら喜ばれた。で、打ち合わせのはずなのに、スグに結論は出た。“イケメン1人でもいいので予定通り次の土曜で合コンしよう”ということだった。こんなことなら、電話ですむはずだ。里美は何をしに来たのだろうか? と思ったら、帰る時に里美が言った。
「あれ? ホテルに行かないんですか?」
「僕、彼女がいるって言うたやんか」
「彼女がいても、ホテルに行くと思っていました」
なるほど、里美はホテルに行きたかったようだ。男に飢えていたのだろう。
さて、土曜日の合コン。開始早々、この日のために呼んだイケメン堀さんの機嫌が悪くなった。里美と靖子がお気に召さなかったらしい。里美と靖子はめちゃくちゃ盛り上がっていたが、男性陣にとっては盛り上がらない合コンだった。だが、放っておいても時間は経つ。やがて、1次会の飲み会は終わった。結局、里美と靖子が上機嫌になっただけだったが、里美と靖子は僕達のテンションが低いことに、何故か気付いていないようだった。ここは、気付いてほしかった。空気を読めよ!
店を出ると、堀さんが、
「悪酔いした」
と言いながら路地裏の側溝に吐き始めた。僕は、“今日の合コンはここまでやなぁ”と思った。堀さんの背中をさすりながら、
「大丈夫ですか?」
と、声をかける。
「アカンわ」
と、堀さんは言っていた。
だが、
「カラオケ行こうやー!」
と言いながら、吐いている堀さんの腕を引っ張る里美と靖子を見て、僕は引いた。
「アカンわ、堀さんがダウンしたから今日はここまでや、お疲れ様!」
僕は里美と靖子を帰らせた。堀さんは終始おもしろくなさそうだった。まあ、里美と靖子の女子力では、盛り上がらなくても仕方がないと思った。こんなことを言うと女性から嫌われそうだが、言おう、里美も靖子も、顔は残念な感じだったのだ。最初にビジュアルには恵まれていないと書いたが、改めて書いた。しかも、吐いてる人間の腕を引っ張って遊びに行こうとするところを見ると、性格にも難があるなぁと思った。せめて優しい良い子なら、付き合っても良いと思うこともあるのだが。彼女達は、吐いてる人間を見て心配しないのか?
女性陣の前では吐いていた堀さんだが、まだ遊び足りなそうな里美と靖子の姿が消えると、先程まで吐いていたのが嘘のようにシッカリと立ち上がった。
「あれ? 吐いてて苦しんでたんじゃないの……?」
「ああ、俺、吐こうと思ったらいつでも吐けるねん。これであの2人は帰ったな。ほな、飲み直そうか?」
それはそれで、僕は引いた。僕はその夜、2度引いた。
或る日の合コン! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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