コンビニ
筆入優
コンビニ
コンビニの駐輪場、乱雑に停められた自転車の大群が夕日を浴びて光っている。正常な人間と同じように、光っている。そんな光景を見るたび、僕は世界の仕組みを思い出す。必死に生きてきた僕も、すべての授業を飛んだあいつも、夕日を浴びている。
スマホのカメラを起動して、直接見ると目を痛める光を、ブルーライト越しに捉える。拡大すると、夕日の解像度が粗くなる。恋人を見る時と同じ感覚だ。近づくと粗が目立ち、遠ざけたくなる。僕はカメラを最小に戻してからスマホを鞄に突っ込んだ。
教材がびっしりと入っていて、スマホはその間に挟まれている。スリムな体型なのに窮屈な場所へ入れたのか、スリムだから入ると判断したのか。考えて、考えて、無意識の判断は思い出そうとすると余計にわからなくなることに気づき、やめた。
自転車の鍵を抜いて、コンビニに入る。自動ドアのスタイリッシュな音を汚すように、賑やかな入店音が重なる。
僕には、唯一信じていることがある。コンビニに世界のすべてがあるということだ。駐輪場で夕日を浴びる自転車、小さな声をかき消す音、気温から逃れた室内、合羽、コンドーム、食料、飲料、ひげ剃り、歯ブラシ、僕らが求めているもの。それらはすべて、ここにある。家具なんかは、通販で買った後、ここで支払うだけだ。
人々の生活が密集している。誰かがその一部にお金を出して、別の場所で生活を始める。一方、僕はコンビニに永住したって構わないと思っている。監視カメラで常に見張られているのは気に食わないが、ここにいれば生きていくための術や資金が手に入る。
買うものを決めていなかった。店内を暇つぶしのように歩き回ると怪しまれそうだ。使う予定も相手もいないコンドームを手にとって、衛生関連の商品棚に移った。安い歯ブラシを手に取る。合羽を抱きかかえる。ブルーシートのように使用したいと思う。コンビニのすぐ横に、簡易的な生活スペースを作りたい。
「いつ使うの?」
横から声が聞こえてきた。振り向くと、同じクラスの城山さんが手元のコンドームをじぃっと見つめている。長い髪が胸の上に垂れていて、
「何も持たずに徘徊していると、怪しまれる」
僕は真顔でそう言った。
彼女の笑顔を見つめても、笑いのツボが見えてくることはなかった。僕は手元の商品を棚に戻す。雑誌の前を素通りして、冷蔵庫の前に立った。色とりどりのラベルが貼られたプラスチック容器が並んでいる。その中に甘い液体が入っている。そのほとんどに色がついている。絶対に着色しないとジュースではない、ということはない。味さえついていれば、一見すると水のように見える液体もジュースに分類される。それでも色をつけたがるのは、派手なラベルを貼りたがるのは、味に自信がないからだ。ファッションみたいなものだ、と思いながらこの十八年を生きてきた。だから、僕は、ジュースに対して、時々恋心のような感情を抱く。オレンジ色のファンタは可愛い。真っ黒なコーヒーは格好いい。
僕は、そのどちらでもない、ヨーグリーナを選んだ。透き通った色をしている。今日は裸を愛そうと決めたのだ。
レジの前、暖色のケースに揚げ物が入っている。悩み抜いた末、買わないことにした。彼らは衣を着ていて、裸ではない。ふと隣のレジを見やると、城山さんが揚げ物を三つも注文している。
自動精算の機械に小銭を投入すると、店内をジャックするJ-POP未満の激しい音が鳴った。声を荒げるだけでは大きな声に勝てないという教訓かもしれない。やはりコンビニには世界のすべてが揃っている。
レジ袋を提げて外に出る。宇宙よりも下にある平面が紫色に染まっていて、更に下で生活する僕らに変色の美を見せつけている。コンビニには空がないことを思い出した。
コンビニ 筆入優 @i_sunnyman
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