ゾンビを狩ってガチャを引く!?社畜の俺が生き延びるためのサバイバル戦略

UFOのソース味

プロローグ

「薫様、将軍がお戻りになりました」


「うん、通していいよ」


「はっ」


 ここは地上50階建てのタワーマンションの最上階のオーナーズルーム、完成後はこの摩天楼の所有者が入居する予定となっていた。だが、その入居予定者は、きっとゾンビにでもなって、この街のどこかを徘徊しているに違いない。そういったわけで、この所有者のいない贅を尽くした部屋に、俺は住んでいる。


 美咲の案に従い、元々、備え付けられていたインテリアのほとんどを撤去し、舞台を作らせた。その舞台には豪奢なソファが一脚だけあって、それ以外には物を置いていない。床との間には、2段ある階段を作らせた。


 大きな一枚ガラスを背に、俺は膝を組みソファに沈んでいる。ちょうど、相対する人からすれば、後光が差しているように見えるだろう。そうして、俺の両隣には妹の美咲、妾として葵が1段下に腰掛けている。


「薫様、ただいまの戦況をお伝えいたします。寝屋川を中心に展開していた部隊は、ゾンビどもを押し返し、天満橋を中心に複数の橋を確保することに成功いたしました。つきましては、後詰として、他の部隊の応援を願いたいのですが……」


 将軍として北区への侵攻を託していた、唯一女性の将軍、中村 紗良、ひざまづく姿勢からは胸元がチラチラと見えてしまい、思わず凝視してしまう。


「薫様?」


「あ、あぁ、ごめん、ええと、誰か手の空いてるやついたっけ?」


「お兄ちゃん、確か、今日は新人の訓練も兼ねて、資源回収にいっていた部隊がさっき帰ってきてたよ。それにいかせたら?実地の訓練にもなるし」


「そうだな。一応、あいつに確認を取って問題なければ連れていってもいいかもしれない。ほとんど新人だから、あまり助けにはならないかもしれないけど、それでよければ」


「ありがとうございます。承知いたしました」


「あ、死体の処理は忘れないようにね。しっかり焼いて、骨は細かく粉砕してどっかにまとめて埋めといて。放っておくと土壌汚染になりかねないし、未知のウイルスとか感染症が出来ても困るから。それを新人たちにやらせるのもいいかもね」


「はっ。では、前線に戻ります」


 紗良を視線で見送ると、俺はスマホを開き、アプリを起動する。ガチャのレベルは4まで上がった。クリスタルも順調に回収できている。レベル3の特典により、仲間と認めた人間がゾンビを殺しても、クリスタルを回収できるようになった。このハードモードの世界が一気にイージーに変わった瞬間だった。


「このクリスタルの数だと100連は回せるな。でも、大阪府の人口だけで800万人近くいるから、この調子でゾンビを根絶やしにしていかないと防御も追いつかない。おい、これからガチャを回していくから、回収と保管だけ頼むわ」


「承知いたしました」


 少し離れたところに立っていた係の男に伝え、俺はガチャを回し始める。ポーション、マシンガン、応急処置キット、ハンドガンの弾(1セット)、サバイバルナイフ、精神強化薬、ワクチンなど、無数のアイテムが目の前に召喚されていく。それらを複数人が必死に拾い、バケツリレーの要領で各保管庫に収納していく。そうして、それは前線の部隊に配備され、たまに出る食材はこのタワーマンションに住む人間たちに配給されていく。


「この調子なら、もうすぐ中央区、浪速区に続いて、北区も制圧できるかもしれない。そろそろ、橋頭堡として別の場所に基地を整備してもいい頃合いだろう」


 クリスタルは消費しても消費しても無くなることはない。総勢15人からなる将軍と、その配下にある6つの部隊により、こうしている間にも大阪市内のあらゆる地域でゾンビを殺戮していく。


 それでも、まだまだ物資は足りない。住民は2000人近くにまで膨れ上がり、今後はますます増え続けていくだろう。子供達もどんどん生まれていっている。いまのペースでは確実に足りなくなるのは目に見えていた。物資や資源の回収だけでなく生産も必要になってくる。知識も人も材料もすべて足りていなかった。


「薫様、鈴木 健太将軍がお目通り願いたいと申しております。いかがされますでしょうか?」


「わかった。通していいよ」


 健太はボディビルダーのように身体を鍛えていた。固くしなやかな筋肉があれば、ゾンビに噛まれても感染しないという意味不明な持論を傘下の各部隊に落とし込み、彼が指導している部隊は男女ともに筋肉隆々。一部の部隊では、銃は甘えとみなし、拳一つの肉弾戦でゾンビを殺しまわっているところもあると聞く。そんな健太はこの王国の設立メンバーのなかでは古参で、以前にいた自衛隊の基地から一緒に逃げてきた仲だった。


「進捗はどう?」


「はっ、かねてより問題となっていた高速道路になりますが、現在、各出口から一斉に侵攻し、挟み撃ちにしてゾンビどもを蜂の巣にしております。順調に制圧を進めていっておりますが、乗り捨てられた乗用車があまりにも多く、その解体と移動、隠れていたゾンビの回収、死体焼きに時間がかかっているところであります」


「なるほど、応援が必要になるのか」


「はい、仰る通りです」


「ただ、いまは北方の前線も佳境に入っている。ついさっき増援の部隊を送ったばっかりだ。そこに追加の支援となるとかなり厳しいな」


 健太はわかりやすく落胆していた。そんなに人手が足りていないのだろうか。


「あ、それなら、手の空いている住民に募集をかけて単純作業をさせてもいい。君たちはゾンビを殺すことにさえ集中してもらえれば少しはスピードアップできるはずだ」


「ありがとうございます。では、この前に迎え入れた難民どもから中心に募集していきますが、よろしいでしょうか?」


「いいよ。早速つれていくといい」


「はっ、では失礼致します」


 高速道路網はこれからの戦いにおいて必須となるだろう。京都、奈良、滋賀、それら関西地方を治めていくには各部隊を随時派遣できる機動力は必要不可欠だ。そうして、いずれ、この大阪を取り返し、日本全土からゾンビを殺し切るまでは、この戦争を終えることはできない。そして、このガチャは野望を実現させるための重要な鍵となるだろう。


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