ゾンビを狩ってガチャを引く!?社畜の俺が生き延びるためのサバイバル戦略
UFOのソース味
第1話
夕闇に染まり始める室内に、俺は一人膝を抱えていた。
リビングの真ん中に死体があった。死んで間もないというのに、もう虫がたかっている。
彼女は恋人だった。幸せの絶頂に変わり果ててしまった結衣は、血溜まりのなかに沈んでいる。もう、あの心配そうに見つめてくれた眼差しも、ボケればなんでも笑ってくれた優しさも、その手の温もりも、もう二度と感じることはない。泣いても、泣いてもとめどなく溢れ続ける涙は治ることも知らず、身体中の水分が流れ切るまで止まらないのではないかと思うくらいに。
そうして時間も忘れ堂々巡りのように、じっと考えている。どうしてこうなってしまったのか。頭のなかをグルグル回っている。
「もう、無理だよ。耐えきれないよこんなの」
「おい、月城、その客、1時間で押し込んでこい。別の客から反響入ってるから」
「わかりました」
「今日だけで5本案内あるから全部決めてこいよ。お前が一番案内当たってんだから、決めてくるまで帰ってくんな」
「はい」
「あと、佐藤も一緒に連れて行け。後輩が見てるんだから、カッコ悪いとこ見せんなよ」
壁にかかっている時計を見ると12時を過ぎようとしている。客とは12時30分に物件現地での待ち合わせのため、そろそろでないと間に合わない。鞄を取り、自動ドアをくぐると夏の訪れを予感させる熱気が身体を包んだ。
「だるいな、しかも問い合わせきてる物件、1番手の申し込み入ってんじゃん」
「ですね。うまく切り返さないと最近クレームも多いですし」
車のドアを開けエンジンをかける。冷房を最大にし待ち合わせ場所の物件現地まで車を飛ばした。街中は路上駐車が目立った。ホテルはどこも満室のため、あぶれた人々は車中泊をして生活を凌いでいる。
「東京のこと聞いた?いま大変らしいよ」
助手席に座る結衣を見る。白いブラウスに黒のスキニーパンツ、社会人として標準的な格好をしている。この服の中まで確認したことがあるのは俺だけだと思うと、沸々と優越感が湧き上がってくる。
「え、無視?」
「ごめん、めちゃくちゃぼんやりしてた」
「どうせ、変なこと考えてたんでしょ。今日の夜のこととか」
「あはは」
渋滞をかわしどうにか物件まで辿り着くと、すでに客は待っていた。車から降りて、二人でわざとらしく駆け寄る。
「大変お待たせいたしました。本日はよろしくお願いいたします。月城と申します。こちらは研修で同行している佐藤です。」
「よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」
客は一人だった。今日は気温29度と暑いのに上下にスーツを着てネクタイまで締めている。おかしな人だとも思ったが、過去にも仕事の途中に抜け出して内覧に来た客もいたので、そこまで不自然に思わず、室内へと誘導していく。
「では、さっそく見ていきましょうか。ちなみに今日はどちらから来られたんですか?」
「昨日の夜にやっと大阪に着いたんですよ。電車も高速道路も封鎖されているので、千葉から下道で車を走らせてきました。渋滞とかもあったんで、2日ぐらいかかりましたね」
「それは大変でしたね」
「ええ、もう二度と同じことはしたくないです」
「じゃあ、大阪は初めてなんですか?」
案内用の鍵を探し、玄関を開け、スリッパを揃える。頭上にあるブレーカーをあげるといつもなら電気が点くはずなのに、今日は暗いままだった。
「いえ、もともと出身は大阪なので、ある程度は土地勘があります」
「そうなんですね。ちょっと電気がつかないので、カーテンを開けてみます。暗かったらお手数なんですけど、スマホのライトで確認してもらえたらと思います」
「わかりました」
1LDK、築15年の部屋、キッチンは外付け、エアコンは別途購入と取り付けが必要という、なかなか選ばれにくい物件ではあるものの、オーナーがボケてるのか、それとも良心からか、一斉に値上がりしている家賃相場のなか、地下鉄の駅から徒歩5分で共益費込み5万円という破格の家賃だ。悲しいかな、すでに一番手の申し込みが入っているため、キャンセルか審査落ち待つ形になる。
「ここって、ほかの物件よりもかなり安いですよね」
「ですね。東京の件もあったので、ひどいところだと倍以上に家賃を上げてる物件も結構あります。そういう意味ではかなりお得かなと思いますね」
「事故物件じゃないですよね?」
「事故物件なら、怖くて私が内覧できないので、紹介しませんよ」
「あはは、そうですか」
結衣は客を俺と挟むようにして、ついてきていた。某RPGゲームだなとも思いながら、いつものように話を進めていく。
「いま、関東の方だと感染症とかも流行っているので、住宅街にある方がやっぱりいいですね」
「感染症ですか?」
「ええ、狂犬病みたいなのが流行っているみたいで、あ、僕は感染してないので安心してください」
「は、はぁ」
「あ、ベランダって降りてみてもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
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