第4章

20_影ある制度~use the special system~

『え~一年F組、真中一くん。一年F組、真中一くん。昼食を済ませた後でいいので、昼休み中に職員室の佐藤のところまで来てください。繰り返します――』


 ゴールデンウィークが終わった翌日の昼休み、休憩時間が始まるとすぐに校内放送で呼び出しがかかった。


「おいおいハジメ、何やらかしたんだ?」


「え? さぁ……?」


 休み明け早々に呼び出しがかかるような『やらかし』は校外でしていない――はずだ。


「まぁ何の用事か思い出せないってことなら、大した用事じゃないんじゃないかとは思うけどな?」


「そうだよなぁ……う~ん……」


 いくら思い返してみても、職員室に呼び出されて𠮟られるようなことはしていない――


 ゴールデンウィーク期間中の課題は、朝のホームルームが終わってすぐに担任の佐藤に渡している。課題を出した時も『採点は後日行うので、他の課題を放課後に取りに来るように』と言われたくらいで、特に問題があったわけではない。


「もしかして課題間違えて提出したとかかなぁ……?」


「だったらその場で言われるんじゃないか? そんなに気になるなら、先に行ってチャッチャと用事を済ませてから外で昼飯食おうぜ?」


「……そうだな」


 比和が提案を受け入れた真中は、昼食のコンビニおにぎりをビニール袋に入れたまま持つと、そのまま教室を後にした。『休み明け早々何やらかしたんだあいつ?』という陰口は、努めて聞かないようにする。


「気にすんなって、マジでヤバかったら教室に先生が来るはずだし、そうじゃないってことは大したことじゃないって」


「だよなぁ……」


 呼び出されたことで教室で浮いてしまった感は否めないが、比和が教室の外で昼食を食べることを提案してくれたおかげで、自然と帰りが遅くなっても違和感がないようになっている。


 比和に励まされながら、そして、面倒なことは避けたいと思いながら真中が職員室へ向かうと、呼び出しの理由は単純なものだと分かり、ほっと胸をなでおろした。


「お、来たか。真中、今日の朝に黄瀬から聞いたんだが、今後は勉強を教えてもらうんだって?」


「あ~……そうです」


 佐藤が確認してきた内容には心当たりがある。


 なので、真中は彼の質問に対して素直に答えた。


「ゴールデンウィーク中にたまたま黄瀬さんと会って、その後ちょっと話をしたら了承してくれました」


「そうか……二人がそれでいいなら先生も助かるから別に構わないが……本当にいいんだな?」


 確認したいことが事実だと分かったのか、佐藤の声には心配がにじんでいる。


「……? どういうことですか?」


 別に悪いことはしていないはずだ、と真中が首をかしげると、彼はあたりをキョロキョロと見回すと、手を招くジェスチャーで真中に近づくように指示する。


「あまり大きな声では言えないが、成績優秀者に指導してもらっても成績が向上しない生徒は多い。その上、黄瀬はそうではないと思いたいが、成績優秀者の中には補欠合格者を自分の荷物持ちとして、この制度を悪用する生徒もいるくらいだ」


 佐藤が耳打ちしてきた内容は、生徒がまことしやかに話しているものと変わりないものだった。


 どこからか漏れている情報が事実であると言う裏が取れてしまったことは残念でしかないが、黄瀬はそんなことをしないと思っている真中からすれば、この情報はあっても大して意味がない。


「あの……それはよく言われてて知ってますけど、黄瀬さんはそんなことないと思いますよ」


「『よく言われている』だって? ……それはそれで問題だが……この際は置いておいて、改めて聞こう。真中一くん、君は同じクラスの黄瀬真城くんに『特待生特権』を活用して勉学を教えてもらう代わりに、対価として彼女の身の回りの手伝いをする『被監督生』として今後は生活するということで間違いないな?」


 聞きなれない言葉が出てきたが、正式名称はそう言うのだろう。


 「はい、それでお願いします」


 ただ、入学してから行われている課題漬けの日々から解放されるなら、どうでもよかった。


「……わかった。それでは放課後また職員室に来てくれ」


 真中の決意は固いと感じたのか、佐藤はそれ以上何も言わずにパソコンに視線を移し、何かを打ち込み始めた。


「では、失礼します」


 それを見て真中はもう解放されたと思い、そのまま職員室を出て行った。


「お、お疲れさん。何の用事だったんだ?」


 職員室を出てすぐ、比和の開口一番の質問は予想できるものだった。


「大したことじゃないよ。今後は勉強を黄瀬さんから教えてもらうってことの再確認みたいな感じだよ」


「あ~なるほどな、どこかで適当にご飯を食べようぜ?」


 それほど時間が取られなかったとはいえ、昼休みの残り時間は淡々と減っている。


 二人は座れそうな場所を探し、空いているテーブルを見つけると、そこに腰を下ろした。

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