おじいちゃんの命日
ほしのしずく
第1話 おじいちゃんの命日
今日は、大好きで尊敬する祖父の13回目の命日です。
この機会に、その祖父のことを語らせてください。
私の祖父は、本当に素晴らしい人でした。
八十六年という生涯で愛した女性は、たった一人、私の祖母だけでした。
祖母は二十代後半で乳がんを患い、当時の限られた医療では治療方法がなく、あっという間に末期となってしまいました。
そして、三十代前半に壮絶な闘病の末、当時幼かった母とその姉を残して、天国へと旅立ってしまったのです。
祖父は、そこから男手一つで母とその姉を育て上げました。
当時の祖父はまだ働き盛りの四十代手前で、見合い話が絶えなかったようでしたが、すべて断り続けました。
私は晩年の祖父に「一度たりとも他の人に魅力を感じなかったの?」と聞いたことがあります。
祖父はニッコリと笑って答えました。
「ワシは、初子さんに惚れて結婚したんやぞ。他の人なんて好きになるわけない。何年経とうが、亡くなろうが、一番は一番や」と。
そして、いつも持ち歩いていた薄汚れた名刺入れから若かりし頃の祖母の写真を取り出し、愛おしそうに撫でていました。
「目が可愛くて、手が細くて、器用な人だったな……ワシには勿体ない美人さんだった。もっと幸せにしてやりたかったな。もっと一緒にいたかった。もうすぐ、ワシもそっちにいくからな――」
祖父の口からは、褒め言葉や後悔、願望が次々とこぼれました。
当時の私は学生で、結婚や恋愛のことなどよく分かりませんでした。
ただ「じいちゃん、そんなこと言わずに長生きしてよ」としか言えませんでした。
正直、大人になり結婚を経ても、祖父の気持ちを完全に理解することはできません。
ただ、祖父が祖母の写真に向けた眼差しの意味は少しわかるような気がします。
祖父にとって祖母は、人生という旅路の中で見つけた唯一無二の宝物だったのでしょう。
現実では、運命の相手を見つけ、生涯愛を貫き通すというのは簡単なことではありません。
ですが、それぞれが出会った頃の思い出を振り返ると、そこにはかけがえのない宝物があるはずです。
皆さんが、大切な人と添い遂げられますように。
幸せでありますように。
おじいちゃんの命日 ほしのしずく @hosinosizuku0723
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