繰り返し何度も④

 それからしばらくして、入院していた結衣が家に帰ってくるという連絡が入った。

 病院に何度かお見舞いに行ったし、久々の再会というわけではなかったが、退院できるほどには回復したことが嬉しかった。


 せっかくだし快気祝いに何かあげたら喜ぶだろうか。


 そんな単純な考えがふと浮かび上がり、衝動のままなけなしのお金を握りしめて街へと繰り出した。

 普段ほとんど行くことのないキラキラとしたオシャレな街。右を向けば大学生くらいのオシャレなお姉さんたちが優雅にランチをしている姿が見え、左を向けば一度は聞いたことのある高級ブランドのお店に入る夫婦が見え、上を向けば『フレッシュ! 爽快に夏を乗り切ろう!』と書かれた大きな広告が情報として入ってきた。


「未知の世界だ……」


 地元とは違い、都心がここまで情報量の多い街だとは思わなかった。誰かについてきてもらえばまだ動じずにいられたはずなのだが、衝動のまま行動を起こし、一人で来てしまったため、駅で降りてから狼狽えてばかりだった。

 場違い感がすごく、思わず後ずさる。

 だがもしかしたら、ここで結衣好みのいいものが見つかるかもしれない。


「食べ物だと制限あったりするのかな?」

「これはきっと好みじゃないよな」


 ドキドキと勇気を振り絞っていくつかのお店に入ってみる。

 店員さんの視線が痛いというか妙に微笑ましく感じるのはきっと気のせいじゃない。声をかけようと近づいてくる気配を感じ、その場から逃げ出すこともあった。そんな気まずい思いをしながら数件まわったところで、目を惹く商品を見つけた。


(ふわふわして可愛い)


 雲のような羊のようなそのキャラクターは”ふわリン”という名前らしい。

 初めてみるが結衣の部屋の雰囲気ともマッチしていてとても良さそうに感じた。

 今、目の前にあるのは小さな置物のようだが、机の上とかに飾ったら可愛いんじゃないだろうかと想像を膨らませる。


 そうしてジッと見つめていたため、いつの間にか近くに店員さんがきていることに全く気づかなかった。


「お兄ちゃん。何かお探しものですか?」

「えっ?」


 ちらりと声のした方向を見ると、化粧ばっちりの黒髪を一纏めにした清楚な女性店員に声をかけられていた。

 その人は縁の目の前にある商品を見た瞬間、にっこりと微笑んだ。


「ふわリンを見ていたんですか? このキャラクター可愛いですよね。私もお気に入りで、ほら缶バッチなんかも」

「あ、いや……だ、大丈、夫です!」


 カーっと顔に熱が集まるのを感じた。中学生がそれも男がなんでこんなところに来ているんだとか思われたかもしれないと、恥ずかしさが増してその場から逃げるように立ち去った。



「何やってんの」


 とりあえず最寄駅まで逃げ帰り、顔の火照りを覚ますために、改札を出たすぐのところで風に当たっていると、たまたま翔に会った。

 学校の帰りだろうか、休日だというのに制服の着ている翔は高校生になってからだんだんと大人らしくなってきていた。まだまだ子供の縁はそんな兄に対して何度も羨ましいと思い、早く大人になりたいと感じてばかりだった。


「ちょっと風に当たってる」


 パタパタと手を仰ぎ、涼しくもない微妙な風をおこす。夏だし今日も暑いから不自然な行動でない。

 でもその行動が翔をある考えに導いた。


「何お前、告白でもされた?」

「は?」

「いやだって明らかに行動がおかしいし、告白されたとかで照れてんのかなって」


 なんという勘違いだ。今までの人生の中で告白という一大イベントが開催されたことなんてない。もちろん、告白するというイベントも開催したことはないが。


「そ、そんなわけないじゃん!」

「はいはい、そんな照れなくてもいいって。お兄ちゃんに話してみなさい」


 ニヤニヤと肩を組み、告白されたと決めつける翔を横目に、はあとため息をつく。


(まあ別に隠すことでもないし、さっきの件を少し話してみるか)


 それから街に行った一連の流れを翔に話すと、今度は逆に肩を震わせて笑い出した。


「おまっ、そんなところに……ふっ、しかも店員さんに圧倒されて帰ってきたって、可愛いかよ、あはははっ」

「そ、そんなに笑うことないだろ! これでも必死だったんだ」

「顔を真っ赤にさせて不自然に手で仰ぐからてっきり告白でもされたかと思っていたけど。お前は本当に結衣にしか興味ないよな」

「~~っ俺帰る!」

「あー待て待て。俺が悪かった」


 翔は帰ろうとした縁の腕を慌てて掴み、引き止める。


「なんだよ。俺は今から帰って」

「その前に! ほら行くぞ」

「どこに行くっていうんだよ。ちょっ、引っ張るな、離せ!」


 家とは逆方向に引っ張られていく。

 つまりは再び改札の中へと入ることになったのだった。

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