第22話
「……っっ……っ。」
起き、た?
っていうか、ほんと、酒臭いな。
「な、なんだ、
お前、俺の家に、勝手に
……
お前、
佐藤耕平じゃねぇか。」
あ。
知ってるのか、僕のこと。
「お前、
なんでテニス辞めちまったんだよ。」
……は?
「うちの地区で、
お前こそ、世界が見える奴だと思ってたのに。」
「……貴方達に、
物理的に妨害されましたので。」
「あぁ、駿か。
あの無能のロクデナシか。」
……
え?
「あいつは才能もねぇし、努力もしねぇ。
ただの根性なしのタマナシだ。
外面だけよくなりやがって。糞が。」
……
どういう、ことだ。
「ってか、夕空。
お前、その顔、どうしたんだ。」
っ!?
「ぶつけて転んだだけです。
なんでもありません。」
「そうか。
気を付けろよ。」
「はい。
ありがとうございます。」
「お前の肘は絶対に治る。
俺が必ずセンターコートに立たせて
ばたっ
……は?
「……良かった。
最後に、いい顔が見れた。」
……
「ちょっと重めのアルコール中毒なの。
ほんとに、ごくたまに、
あんな風に優しい顔に戻ることがあるから。」
「……だから、切れなかった?」
「……
それも、あるのかな。
でも、さ。」
?
「ううん。
なんでもないよ。
……
よしっ。
さ、行こっか。
柚、いつまでもトイレに入れとけないでしょ?」
あ、うん。
「……
さよなら。
ありがとう、宇三さん。」
*
<だいぶ、腫れ、ひいてきたぜっ>
まだ痛々しいところはあるけれど、
最初に見た時に比べれば。
<あーあ。
耕平君の部屋のほうが広かったよぉ>
そういう問題じゃない。
どう考えてもダメだって。
それにしても、
<かなめさん、
幼馴染だったんだね>
(夕空は、中学の時、同じクラスだったの。)
嘘では、なかった。
小学校の時からも同級生なだけで。
<クサレ縁だよ、まったくもう>
<かなめの化粧水、あたしのとは違うからさ
無駄に使ってやれないし>
……はは。
<ってなわけだから、
火曜日くらいから学校いくつもり
……はは。
よかっ、た。
夕空さんは、夕空さんに帰ってる。
ん?
<耕平君、
いまから、出て来れる?>
かなめ、さん……?
え、
あれ、
いま、夕空さん、
かなめさんの家にいるんじゃ。
<大丈夫。
君の彼女、裏切ったりしないから>
……どういうこと?
*
……あぁ。
これの、はなしは、たしかに。
「……もう、あんまり意味ないんだけどね。
まさか、夕空が小林コーチの部屋に
監禁されてたとは思わなかったから。」
……。
「で。
この娘が、夕空の肘を刺した子。
笠間未生さん。」
……
中学の柚みたいな大人しそうな子だな。
過失、ってことになって、
刑事事件にはならなかったらしい。
「いま、引っ越して、
山梨のおばあちゃん家の近くの
農業高校にいってる。
こないだ、会ってきた。」
は?
「時間が経ったから。
お互い、冷静に話ができるかな、って思って。」
わ、わりとかなめさんも命知らずだな。
逆上されたり、返り討ちにあったりしたら
「あはは。ないない。
だってもう、笠間さん、
駿に関心なくなってる。」
……そういうものかな。
「牛さんとかと戯れてて、
アニマルセラピーみたいになってたよ。
で、ね。
駿が、この娘に言ったんだって。
『夕空ちゃんには、
ちょっと、困ってるんだよね』
って。」
……
「ね。
指示は、あったのよ。」
……
いや。
もっと、ずっと、狡猾だ。
「これ、
ただ、独り言を言っただけ、
みたいになってない?」
「……
そう、かも。
たぶん、そうやってる。
耕平君のやつも、きっとね。」
……。
つまり、心酔させてから、
取り巻きに向けて少し愚痴ることで、
取り巻きが忖度して、勝手にやる。
そして、都合が悪くなったら、
取り巻きを、切り捨てる。
……
ずっと、
そうやってきた、ってことか。
「……めちゃくちゃタチ悪い。」
まったく、だ。
「わりと、まずいの。
うちのクラスの娘たち、
駿に、呑まれ始めてる。」
……顔は、いいからなぁ。
宝塚俊永すら、霞むくらいに。
そういえば。
「そもそもだけど、
高槻は、どうして転校してきたんだろ。」
「……あぁ。
夕空から聞いてないのね。」
「夕空さんからは、
女性問題でやらかして、みたいな話は聞いたけど。」
「……半分は、当たり。
半分は、もっと単純で、
高校の練習量についていけなくなった。」
……え。
「強豪校で、タテ社会で、
男女でテニス部が別れてる。
顔の良しあしが通じないところらしいのよ。」
いや、でも。
「子どもの頃からやってて、
県大会の決勝に上がってくるくらいの実力は
あったんだよね。」
「そうだけど、
アスリートに必要なガッツや根性があるかっていったら、
そういうわけじゃないのよ。
あ。」
ん?
「いや、分からないわよ?
でも、いま、なんとなく思ったんだけどね。」
うん。
「実は、駿って、
テニス、辞めたかったんじゃないかな。」
え。
「……
私、ずっと、
逆に考えてたかもしれない。
駿、テニスを続けたかったけど、
能力がないから、耕平君とかを、
妨害してたんじゃないかって。
そう思ってたけど、
もともとが、違ってたとしたら。
コーチの手前、辞められなかったから、
あの一家の中で生き延びるために、悪事に手を染めて、
コーチのアル中が酷くなって、手を出せなくなったから、
大手を振って止めたんじゃないかって。」
……
そういう考え方も、成り立ちはするな。
ただ、かなめさんの推測は大胆すぎて、
外れることもあるから。
「だと、すると、
駿は、ずっと危険になるかもしれない。」
え?
「だって、スポーツのくびきが外れたんだから、
その狡猾さを、女性を口説いたり、壊したりするためだけに、
使ってくるかもしれないじゃない。」
……。
宝塚俊永のように、か。
そうだとすると、心底やばいな。
「……
どうして、よりによって
うちのクラスに来ちゃったのかな。」
……
こっちに来なかったのは、
不幸中の幸いなのか。
*
「ニュースっ。
大ニュースっ。」
ん?
「いま、
土浦柚が、
高槻の野郎に呼び出された。」
えっ!?!?
ゆ、柚、
そんなこと、ひとことも
「おっ。
旧校舎の中庭だとっ。」
っ。
なんで、
なんで、柚なんだ。
(駿は、ずっと危険になるかもしれない)
止める?
袖に縋って泣き叫ぶ?
……
倫子のことは、
もう、いい。
(わ、わたし、
は、離されたくないもんっ!)
柚は、
柚だけは、離さない。
絶対に。
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