第12話 壁
「う~ん......」
玲奈は頭を抱えていた。
試験に向けた練習を始めてから三日、徐々に魔法の扱いは上達していたが......
「......〔
私が新たに覚えた攻撃魔法。
その魔法を、防御魔法と同時に発動させる。
棘のような氷が生成され、勢いよく飛んでいった。
......自分がイメージした方向の逆、防御魔法とを展開しようとした方向へ。
「ダメだ......どうやってもできない」
そう、私はある壁にぶち当たった。
____防御魔法と攻撃魔法を同時に使うと、意志に反して発生する場所が入れ替わってしまうことだった。
五分の一くらいの頻度ではあるが、その失敗は戦闘において大きな損失をもたらす。
攻撃魔法を撃ちたい方向に防御魔法を展開してしまえば、相手に攻撃を与えるチャンスを失い、逆に防御魔法が必要な方向に攻撃魔法を使ってしまえば、最悪......そのまま死ぬ。
今朝キリエナが学校に行くときに、頑張って直しておけと言われてしまったが......何故失敗しているのか、自分でも分からないのだ。
「ダメだぁ〜」
バタッ、と練習場の地面に倒れ込む。
あまり時間をかけてはいられない。
他にもやらなければいけないことが多々ある。
少しばかり落ち込みながらぼーっとしていると、空が暗くなった。
獣人族の戦艦だ。
「正午か。もうそんなに時間が経ってたのか...」
最初こそ驚いていたが、四回も見れば意外と慣れるものだ。
今では、五時のチャイムと同じように感じてしまっている。
そして、いつも通り戦艦は方向を変え、消失した。
「一体どこへ行くのやら...」
キリエナに言われて歴史書などにも目を通したが、あの戦艦について詳しくは載っていなかった。
戦時中だから、というのもあるだろう。
しかし、獣人族については、少し気になることが書かれていた。
それは、獣人族は魔法が使えない、ということだ。
脳の構造が人間と異なっていて、術印をイメージして詠唱に移る一連の流れが出来ないらしい。
しかし、その代わりに術印を研究し、それを武器や兵器に応用する『魔導化学』という新たな考え方を生み出したそうだ。
そして...
「魔導化学を用いて開発、運用される道具の総称が『魔導具』......か」
この世界に来てからずっと思っていたが、私がイメージしていた異世界と違う点がかなりが多い。
まぁ、あっちは創作物だから当たり前だが......
「......よしっ」
私は勢いよく体を起こす。
せっかく魔法がある世界に来たんだ。
全てが思い通りにいくなんてつまらない。
知らない場所、知らない魔法、全てを見に行こう。
やってみたいこともまだまだ沢山ある。
防御魔法くらいで、へこたれている暇は無い!
「やるぞ!!」
気合いを入れ直し、魔法の練習を再開した。
あああああああああああああああああああああああああああああああああ
「先生! レ、レイナさんは大丈夫なんですか?!」
気絶したレイナに駆け寄るキリエナ。
私は魔法を使って、彼女の容態を確認する。
「とりあえず、命に別状は無いよ。ただ......左足の状態がかなり悪い。今すぐ保健室に......」
「あ、あの! 私、回復魔法使えます!」
「なるほど、分かった。ここである程度回復させてから移動させよう。頼めるかい?」
キリエナがレイナに向けて回復魔法を使用する、が、中々治らない。
それもそのはず。
あらぬ方向に曲がり、青黒く腫れている足は、誰の目から見ても重症だ。
他の部位に傷が無いかと確認すると......左手の爪がすべて割れ、出血している。
......どういうことだろう?
傷を負うような場面は無かった。
そもそも、私の攻撃は彼女に当たっていないはず。
「キリエナ。これ、原因とかは分かるかい?」
「きっと、魔力を使いすぎたんです。あれほど言ったのに......でも、ここまで酷くなるなんて......」
「......
「レイナさんは......技巧魔力が無くて、魔法を使う際に生体魔力を消費してしまうんです。だから、魔法を使い過ぎると、体が傷ついて.....」
「......」
ありえない。
魔力が無いことは最初に彼女がこの部屋に来た時に確認したが、隠匿魔法の類いだろうと思っていた。
技巧魔力が完全に無い?
生命魔力を使用して魔法を使う?
そんな事例は今まで聴いたことが無い。
例えそれが可能だったとしても......ありえない。
生命魔力は文字通り、生きるために必要な魔力。
それを消費しながら魔法を使うなんて......
自殺行為というより、ただの自殺だ。
しかし、彼女は先程まで平気な顔をして魔法を使っていた。
もし、キリエナが口にしたことが全て事実なら......
「この子は、一体......」
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