ピンとキリ
すみはし
ピンとキリ
「人間に価値ってあると思う?」
君が街を一望したいと駄々をこねるから連れてきたものの、天気が悪く道のりは霧がかっていて足元が悪い。
展望台で写真を撮って欲しいと言うから着いてきたがろくな写真は撮れそうにない。
「あるんじゃない、ピンキリだと思うけど」
「そうね。まぁ私って可愛いじゃない? だから当たり前に私のことを評価してくれて価値はあると思う人は沢山いると思うんだけど、私のことを可愛いと思わない人ももちろんごく稀にいる訳で、その人からすると私に価値はほとんどないのよね」
ため息を着く君は学校で見るよりお洒落で、可愛くて、饒舌だ。
学校の規制とはなんと勿体ないことか。
君の価値は学校より今の方がきっと跳ね上がっているよ、少なくとも僕の中では。
「随分自信過剰な発言だと思うけど君が可愛いのは事実だし言ってることには納得だよ。価値は人それぞれ感じ方が違う。僕は誰から見ても無価値な人間だから関係ないけどね」
「あなたのその自信の無いところは良くないところよ。少なくとも私が駄々をこねれば多少の無茶は聞いてくれる優しさに価値はあると思うもの」
「それは優しさというか流されやすさというか」
下心というか、という思いは伏せる。
「あとは肩書きとして社長だとかなんだとか言っても、怠惰で社員を怒鳴りつけるだけが仕事の大企業のブラック社長と、小さい会社で売上は高くないけれど暖かくて社員満足度が高い朗らかな優しい社長。どっちの価値が高いのかしらね」
山道を1歩登る度に何となく“価値”というものの上下を考えてしまう。
「物は言いよう、捉えよう。どこを切り取るかだね」
「そうね、絶対値って存在しないのよね、きっと」
「人間誰しも価値はそれぞれ、結論は出ないと思うよ」
「ピンキリってところに収束するのね。とこらでピンとキリってどっちが上でどっちが下なのかしら」
「ピンは一だとしてそれを一番上ととるか一番下ととるか、話出せばそれこそキリがない気がするよ」
「あなたの価値はピンの方ですって言われても困っちゃうわよね」
君がぴょん、と飛び跳ねて昇った一段は気づけば展望台へとたどり着く最後の一歩だった。
「着いたわよ、撮って撮って」
「急かさないでよ」
着くや否やと早々にカメラを起動させたスマホを構えさせられ、足元から視線を前に移すと気づけば天気は良好。
キリは晴れピントは君にしっかり当たり、僕の中ではピンと君が一番だと思った。
ピンとキリ すみはし @sumikko0020
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