第23話 どれにしようかな?



 外から見ると、祠に載った彫刻のマークがちょっとずつ違う。丸や四角、三角、星のマークだったり、稲妻のようだったり。得られる解放のヒントになっているのか?


「こんなことなら、二回めにやった四倍の遺跡をあとまわしにしとくんだった。そしたら、あと二つ、ここの遺跡に入れてたのになぁ」

「生命力が上昇する遺跡にも、何倍ではなく、数十、数百など決まった値を加算するものもある」

「えっ? そうなの? 全部が整数倍なんだと思ってた」

「ここが加算型なら三つ以上、入れるやもしれぬな」

「そうなんだ」


 それは嬉しいが、やっぱり倍々で増えるほうがラクだし嬉しい。いっきに強くなった気がするからだ。


 それに、忘れてならないのが南の丘にある遺跡の条件だ。解放した回数が十回以内でなければならない。レルシャはすでに五つの遺跡を制覇しているから、解放できるのはあと五回。最後の十回めは南の丘の遺跡にチャレンジするから、ここでは九回までにとどめておかなければならない。条件がほかと違うのは、得られる解放もいいものに違いないからだ。南の丘遺跡は絶対に解放したい。


「南の丘の遺跡には赤い点滅があったから、戦う試練があるね」

「戦闘試練の遺跡の解放は、出てくる敵が強いほどよいものを得られる」

「だよね」


 だとしたら、外すことはできない。やはり、今日この場所で四つ挑戦し、もしそれでも生命力条件に余裕があったなら、後日あらためて来るしかない。


 そこでまた、最初の問題にもどってくる。


(解放回数が条件になってるとこは、ほかにも何個かあったんだよね。ただ、そっちは五十以上とか、百以上とか、数が多ければよかったから、今のところ問題ない)


 むしろ、早くその数に達するために、最初のうちに行ける遺跡を細かくひろっておきたいのだ。


「どこが加算かなぁ? 加算で行けるとこをさきにすませたいよね」


 すると、なぜか、祠の上に赤い点滅がいくつか現れる。


「ん? この点滅はもしかして……」

「なー?」

「おおっ、レルシャよ。前回の叡智遺跡で使ったアレだな?」


 そう。嘘を発見するスキルだ。


「この技って無生物にもきくんだ!」

「女神像とて生きてはおるまい」

「そう言われてみたら、そうだね」


 乗法か加法かわかるだけでありがたい!


「あなたは加算で解放する遺跡さんですか?」


 一番、赤チカチカ。

 二番、無反応。

 三番、無反応。

 四番、チカチカ。

 五番、無反応。

 六番、無反応。

 七番、チカチカ。

 八番、無反応。

 九番、無反応。

 十番、無反応。


「わかったよ。二、三、五、六、八、九、十が加算式だ。まず、二。そのあと三を挑戦しよう」

「便利よのう」

「いい特技だったね!」


 試練もないから、ここは楽勝だ。

 レルシャは二番の扉に手をあてる。大丈夫。試練なし。条件も生命力400以内。前に調べたとおりだ。扉を押すと、なかは最初にスピカと出会った祠のように、とてもせまかった。外から見た大きさが内部の広さに比例しているわけではないと、最近は気づいていたが、ここは見ためどおりの小ささだ。


 目の前に女神の像がある。でも、像じたいが小さかった。大きめの遺跡に置かれている像の十分の一だ。


「スピカと同じくらいの女神さまだね」

「ウルサイぞ。われが小さいのはおまえが弱いからだと申したであろう」


 せまいなかにレルシャ、ニャルニャ、スピカがいるので、ギュウギュウだ。できるかぎりの形でひざまずく。像に祈るとフワッと光って、解放の感じ。


 祠の外に戻されてから、レルシャは自分の才光の玉を見てみた。八個同じ大きさのものがならんでいたはずなのに、そのわきにものすごく小さな玉が一粒、増えている。


「ちっ、小さい。これって、ふつうの玉の十分の一くらい?」

「さよう。小玉だ。十個そろって、なみの玉よな」

「つまり、基礎値じゃなく、生命力として1増えたくらいかな?」


 ほとんど足されたものがない。まあ、ある意味、成功だった。


「ほかにもあったのに入れなかったーって、あとで悔しくなるくらいなら、中身がどんなだったかわかってると安心だよね」

「では、次に行くがよい」

「なー」


 三番めの扉に入る。二番めよりちょっとだけ大きな部屋と女神像。小粒の玉が二つ増えた。


「……加算型って、みんなこんな感じかな?」

「そんなはずはないが。ふつうは少なくとも並玉一つぶんは増えるもの。この遺跡群は何やら妙な仕掛けがありそうだな」と、スピカはもっともらしいことを言う。


「仕掛けかぁ。まあ、いいや。奇跡的に生命力で3しか増えてないから、あと三つは確実に入れるね」

「うむ。次はどれにするのだ?」

「今日はあと二つだから、五と六かな」


 見わけがつきやすいと思えば、なぜか、解放がすんだ二番と三番は遺跡の発する光が白からピンクに変わっていた。前に解放した遺跡では、光の色が変わりはしなかった。疑問に思ったが、とにかく時間もないので、五番と六番に入る。小粒の玉が、さらに十二個手に入った。十個になると、自然に合体して、ふつうサイズの一個の玉になる。


「これで、僕の戦闘生命力95になったね。それに、二番が小粒一個、三番が小粒二個、五番が四個、六番が八個だった。倍々で増えてる。てことは、たぶん、八番から十番は十六個、三十二個、六十四個の小粒が増えるんだろうね。ふつうの玉で言えば十一個あまり。生命力で言えば112増えるってことか。今の95と足して207。ほかの三つが二倍ずつで増えるとすると……あれ? 倍のが一回で400超えちゃう。加算しないときなら三回行けたのに……」


 これは失敗だった。やっぱり足し算より掛け算で増えてくれるほうが最終的に生命力が多くなる。


「まあ、いいや。とにかく明日は南の丘に行かないといけないから、ここのやりかたは、またあとでゆっくり考えてみよう」


 解放がすむと光の色が変わったり、ほかでは見ない小粒の玉が増えたり、なんだか気になることが多い。どうも、ほかの解放遺跡にくらべて異質だ。スピカの言うとおり、思いがけない仕掛けがほどこされているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る