第5話 殺されそう!
ダークエルフの一団。それも、あきらかに戦士だ。なんのために人間の領内に侵入しているのか?
気になるのは、クーデル砦がつい先日まで魔族の居城だったこと。ダークエルフの先祖は、精霊と魔族の混血だと言われる。そのため両者は性質がよく似ているので、同一の敵に対して共闘する。もしかしたら、砦が堕ちる前、彼らはそこにいたのかもしれない。
(どうしよう。大人のダークエルフに見つかったら、ただじゃすまない)
もしかしたら、彼らはダヴィドを探しているのだろうか? 仲間の少年がはぐれたから? それなら、ダヴィドが外へ出ていけば、きっと、なかまでは見ない。
「ダヴィド。君の仲間が迎えに来たんじゃないの?」
言葉は通じないまでも、外を指さしてみせると、ダヴィドもやってきて、すきまに目をあてる。が、その直後、彼の口から、くぐもったうなり声がもれる。肌が黒いので顔色はわからないものの、表情はこわばっている。
「どうしたの? 君の仲間じゃないの?」
ダヴィドは彼の言葉で何か言う。レルシャの腕をつかみ、必死で何かを訴えるのだが、戸惑っているうちに外から扉がひらいた。
先頭で入ってきたのは長い黒髪の背の高い男だ。肌は褐色で瞳は金色。片耳にひじょうに大きな緑の才光の玉のイヤリングをつけていた。黒いローブを着て、身長より長い杖を持っている。見ただけで、とても強いとわかる。どこから見ても魔法使い。それも黒魔法使いだ。女神ではなく、古代の邪神を信仰している者だ。
男は冷酷な目でレルシャたち三人を見ると、つれに何事か命じた。剣をさげた男と女が前に出て、レルシャとソフィアラに刃をむける。
「何する気っ? レルシャに手を出したら、ゆるさないから!」
ソフィアラが帯のナイフをにぎりしめ、レルシャの前にとびだす。たしかにソフィアラは強い。子どもとは思えない。でも、相手は兵士が六人。その上、とてつもなく強い魔法使い一人だ。かなうはずもない。
「ソフィ。ダメだよ。あの魔法使い、すごく強いよ。ソフィがやられちゃう」
「レルは逃げて!」
逃げると言ったって、扉はダークエルフたちにふさがれている。裏口はない。窓があるけど、とても小さく、しかも少し高い位置にある。レルシャなら背伸びしないと手が届かない。急いで逃げだせるものではなかった。
黒魔法使いに命じられた兵士の男女は、たった一人ナイフをぬいてかまえる女の子を鼻先で笑った。この二人もだいぶ強そうだ。
「やー!」
いきなり、ソフィアラがナイフをつきだして、つっこんでいく。先手必勝のつもりのようだ。が、ダークエルフの女はバカにしきった目で長剣をぬくと、サッとよこに一閃した。ナイフと長剣ではリーチが違いすぎる。ソフィアラの胸から血がしぶいた。
「ソフィー!」
殺される。相手は本気だ。
理由なんてわからない。レルシャたちが人間だからなのか、ただ単にジャマだからなのか、それとも遊び半分なのかさえも。わかるのは、彼らは今ここで確実にレルシャたちを殺すつもりなのだということ。
(もうダメだ。ソフィが殺される。そのあと、ぼくも。ぼくたち、ここで死ぬんだ……)
知らないうちに涙がこぼれていた。すると、何か叫びながら、ダヴィドがダークエルフたちにしがみつく。たぶんだけど、レルシャたちを殺さないでくれと
魔法使いは冷酷な目をしてダヴィドの髪をつかむと、エルフの言葉で何かささやいた。ダヴィドは迷うように視線をさまよわせる。そして、レルシャを見ると、ひどく悲しげな目で微笑んだ。
なんだかおかしい。あのダークエルフたちは、ダヴィドの仲間ではないのかもしれない。仲間にしては
ダヴィドが呪文のようなものを唱えた瞬間、あたりに青白い光があふれた。ダヴィドのあのガラス細工のような角から発している。
レルシャは目がくらんだ。まぶたをあけていられない。
気がついたとき、光はやんでいた。ダークエルフたちの姿は消えていた。ダヴィドも。
何が起こったのか? 何かしらの魔法だったようにも思う。しかし、それどころではない。
「ソフィ! しっかりして!」
レルシャは急いでソフィアラの傷に手をかざし、プチヒールをかける。だが、傷が深すぎる。プチヒールではぜんぜん効かない。レルシャにできる限界まで使用しても、まだ血が止まらない。
(どうしよう。このままじゃ、ソフィが死んじゃう)
泣いていると、外から大勢のかけつけてくる音がした。馬に乗った人たちだ。あけはなされたままの扉から、父と一隊が入ってくる。
「レルシャか? さっきの光はなんだ」
「父上!」
「ソフィアラ! 大ケガじゃないか!」
「ソフィを助けて! 死にそうなんだ!」
ソフィアラは城へ運ばれ、強い回復魔法を使える僧侶によって治された。一命はとりとめたものの、体に傷は残った。女の子なのに、胸に一文字の傷あとが……。
「ソフィ。ごめん。ごめんよ。ぼくのせいで——」
「いいの。レルがぶじだったから」
ソフィアラは笑っていたが、レルシャの心は重く沈んだ。
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