復讐系Vtuber
@1226_Z5-R9CR7
第1話 偶然
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「じゃあ行ってくるね」
「大丈夫?忘れ物ない?」
「大丈夫だよ、昨日も確認したし」
俺、倉橋月は今日高校の入学式に出席する。入学式が嫌いだ。なぜなら、数時間もただ話を聞いてぼーっとしていなければならないからだ。話に集中できる人なら問題ないのかもしれないが、俺には無駄話に集中することができないらしい。
そんなことを考えながら歩いていたら、もう高校の目の前だった。この高校を選んだ理由の半分は家から近いからだ。200メートルほどで着く。体力がない俺にとってこれはありがたい。そんな無駄なことを考えていたら、もう入学式が始まりそうになっていた。
「はぁはぁ」
余裕だと思って油断したせいで、無駄に走ることになってしまった。でも、入学式はずっと座っていられるからよかったと思ってしまう。さっきまで嫌いだと言っていたのに。
入学式が進み、新入生が一人一人返事をしなければならない時間が来た。これが入学式を嫌いな一番の理由だ。
「大塚志音」
「はいッ」
「倉橋月」
「ハぃ」
最悪だ。痰が絡んでふざけているような声になってしまった。入学式から失敗だ。
ざわざわ ざわざわ
正直、慣れている。これが入学式を嫌いな二番目の理由だ。俺の名前は「月」と書いて「ライト」と読む、いわゆるキラキラネームだ。今回は痰が絡んで変な返事になってしまったせいで、名前なのか返事なのかわからない。今までで一番最悪な入学式だ。
そのあとは特に何もなく入学式は終わった。新入生代表のイケメンが話す時に良い感じのざわざわがあったくらいだ。俺との格差を感じてものすごく悲しくなった。でも、入学式が終わるとすぐに帰れるのでそこは好きだ。ただ、今回だけは憂鬱な気持ちで帰ることになりそうだ。
「ただいまー」
「あぁ、おかえりなさい」
部屋に戻り、すぐに大きなため息をついた。
「こういう時はスマホでYouTubeでも見よう」
軽い気持ちで何を見るか探していると、
「へぇー、同時視聴者1万人とかすげぇーな。ちょっと見てみよう」
「ははは、確かにー」
その時、忘れたくても忘れられない記憶が突然蘇った。
「なんで、なんで、なんで、なんで……」
「お父さん、今日お父さんの絵を描いたんだよ」
「おぉ、見せてくれよ、月」
「うん、僕、頑張って描いたんだよー」
「うまいなー、月。将来は画家かもな」
「うん、僕、画家になるー」
倉橋月は普通の家庭で育った一人息子だった。月が小学校に入ったばかりの頃、バンッという大きな音がして、覆面をした男が家に押し入ってきた。手には刃物があり、月は恐怖のあまりクローゼットに隠れて震えることしかできなかった。親は共働きで忙しく、今日は久しぶりに早く帰れるということで月に少しだけ待ってもらっていた。
しばらくしてドアの音が鳴り、親が帰ってきた。
「おーい、帰ったぞー」
「どこにいるの、月?」
その瞬間、覆面の男は二人を何度も刺して声も出さないまま殺してしまった。
「お母さん、お父さん、なんで……」
「チッ、子供がいたのか。でも顔は見られてないし大丈夫だろ」
覆面の男はそう言うとすぐに姿を消した。月に何かを言ったりする時間はなかった。その後も犯人は見つからず、月は母方の祖母に引き取られて生活することになった。
「月、おばあちゃん、買い物行ってくるからね」
「うん、おばあちゃん、行ってらっしゃい」
月は事件のトラウマから部屋から出ることが怖くなってしまった。だが、祖母の田中節子がカウンセリングに通わせたり、積極的に月と関わることで、徐々にトラウマは薄れていった。月も中学1年生になる頃には、学校に行けるようになっていた。しかし、偶然見たYouTuberの声があの時の犯人に似ていたため、心の隅に隠していた傷が蘇ってしまった。
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