思考は柔軟に

 敵艦の補給ルートが変わった!? それが本当なら、先ほどまでの計画は無駄に終わったということだ。



「でも、どうして……? 気まぐれですかね」と松田。



「それは違うな。このタイミングだ、偵察機の存在がばれた可能性が高い」



 おそらく道下の言う通りだろう。まあ、理由がどうであれ、事実は変わらない。偵察機の存在がばれたなら、敵艦は大きく進路を変更するはずだ。待てよ。



「あの、一つの案ですが、直接補給先を攻撃すればいいのでは? 別に敵艦にこだわる必要はないかと……」



 その場に沈黙が訪れる。あれ、見当違いなことを言ったか?



「でかしたぞ、如月。我々は視野が狭すぎた。三枝のスパイ活動を見破った件といい、発想が柔軟だな」と、俺の背中を叩きながら草薙。



 作戦課の面々も納得した表情だった。



「そうとなれば、爆撃の準備だな」



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「さて、偵察機のおかげで補給基地の最新状況が分かった。これだ」と草薙。



 その写真には対空砲による防衛体制が築かれた補給基地が写っていた。さすがに無防備ではないか。爆撃時は対空砲を避けるために低空飛行での接近が求められる。



 作戦課の一人が写真に指で円を描く。「ここを爆撃ルートの入り口にすべきだろう。対空砲をくぐり抜けるには熟練のパイロットが必要だな。人材はこちらで選抜しよう。いや、待てよ。いっそのこと、ちょっと離れたところに停泊している艦艇も攻撃すればどうだ?」



 それはまずい。俺の記憶が正しければ、真珠湾攻撃は敵艦攻撃を優先した。修理工場が無傷だったために、アメリカ軍は立て直しが早かったはずだ。このままでは二の舞になる。未来を知っている俺が止めなければいけない。



「それはダメです! もし、敵艦の反撃が激しければ熟練パイロットを失います。それに、目標を二つ設定すれば『二兎を追う者は一兎をも得ず』になります。手柄を上げたいパイロットが敵艦目指して無謀な攻撃をするに違いありません!」



「情報課の若造が口を出すな! 共同戦線とは言え、作戦の立案は我々作戦課の役割だ」



「まあ、まあ、二人とも落ち着いて。身内で争ったら、敵の思う壺ですよ」



 草薙が俺たちの間に割って入る。ヒートアップし過ぎた。



「我々の目標はあくまで補給基地。そして、積み荷を確実に破壊する。成功すれば敵の補給線を断つことができる。シンプルイズベストですよ」



 草薙がにこやかなに、ただ有無を言わさない口調で話をまとめる。



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「さあ、必要な人材も集め終わった。あとはパイロットの腕にかかっている。もしも――万が一失敗しても――作戦課の責任ではないからな」



 作戦課は失敗なら情報課に責任を負わせ、成功なら自分たちの手柄にするに違いない。怒りを通り越して呆れる。そこまで予防線を張らなくても――。



「それはどうなんでしょうか。共同戦線で戦う以上、結果がどうであれ、二つの部署が最後まで責任を持つのが筋でしょう」作戦課の一人が上司をいさめる。



 どうやら、作戦課にもまともな人物がいるらしい。後で名前を聞いておこう。これからも作戦課と連携をとる上でのキーパーソンになる。



「全ての準備は整った。現地の部隊の成功を祈るしかないな」



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「現地から暗号通信がありました! 無事に作戦を完遂したとのことです」



 部屋がドッと歓声が沸き上がる。しかし、その瞬間、通信士が再び立ち上がる。



「続報があります。敵の増援が予想以上に早く到着し、我々の部隊が包囲されています!」

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