第8話 はぁ?旦那様に夫婦喧嘩の仲裁をしてほしい?離婚したいんですか?
「はぁ? 頭おかしいんですか?」
「いや、ひどいな……」
目に間にいるのは友人の一人であるメリーヌ・チェレーニ子爵夫人。
学院時代の同級生の1人で、親しくしていたこともあって、今でもこうして遊びに来てくれます。
彼女自身はフィーネル伯爵家の出身で、学院で出会ったルード・チェレーニというそこそこカッコいい男の子と結婚しました。
チェレーニ子爵の領地は王都から見てこのクルスローデン伯爵領の先にあるので、王都に行く道すがら年に何度か立ち寄ってくれるのです。
彼女とも彼女の夫のルード君も同級生だから私も多少は知っているということで、たまに愚痴を聞きます。
今日も息抜きをしにやってきたので話を聞いていたら、最近ルード君と割と大きな喧嘩をしたらしい。さらにその喧嘩以降、ルード君とギクシャクしてしまっているらしく、悩み相談になり、なぜか旦那様に仲裁をしてもらえないかと言い出したのです。
「メリーヌ、失礼しました。でも本心です」
「素敵な旦那様じゃないの?」
「目が腐ってるんですか?」
「いや、ひどいな……」
どこをどうやったら旦那様が他の夫婦の喧嘩を仲裁できるようなまともな人に見えるのでしょうか?
あのエランドですよ?
誰か他の人と勘違いしていないかしら?
可愛い子がいたら声をかけてしれっとボディータッチを繰り出し、綺麗な人がいたら凛々しい雰囲気だけ作って抱き寄せに行く生来の女好き。
一方で仕事はできないし、実績もないから語れるのはクルスローデン伯爵家とアーゼンベルク公爵家の名前だけ……。
いまだにどうして旦那様に靡く女性がいるのか、これっぽっちも理解できません。
そんな彼のことを彼女は知らないのかしら?
……うん、知らないわね。メリーヌはあまり社交の場に出ないから。
「それはあなたの旦那様自身の女関係のことだろう? 穏やかな方のようだし、仲裁なら……」
「ムリです」
「ちょっとくらい……」
「不可能です。浮名も流してる旦那様がルード君の前に出た瞬間、ルード君は旦那様とあなたの浮気を疑うでしょう」
「えぇ?」
なぜビックリするのでしょうか。
旦那様はそういう人で、周囲の評価はただの『女好きのバカ』なのですよ?
しかし引き下がる様子はないみたい。
困ったわね。
でも悩んでいることは確かみたいだし、友達として話位聞いた方がいいのかしら?
「そもそも喧嘩の理由はなんなの?」
「私ね……パスタが大好きなのよ」
「はぁ……」
何の話?
いや、あなたの好みくらい私は知ってるわよ?
あなた学生の時、ほぼ毎日お昼にパスタを食べていたから、そもそも同級生で知らない人はいないと思うわよ?
もちろんルード君も。
「なのに、この前、連れて行ってくれたレストランがお肉料理専門のお店で、パスタがイマイチだったの。私の誕生日が近かったのに!?」
「はぁ……」
この話を私にすることが間違いだと、誰か彼女に気付かせてほしい。
旦那様の場合そもそもレストランなどに連れて行ってはくれません。入れ込んだ女はそれこそ毎日のように連れ込んでいるのに……。むしろ私が無理やり縛り付けて引きずって行かないと一緒にレストランに入ることもできないでしょう。
「ねっ……?」
「はっ? どういうこと? 話は終わり? 喧嘩の理由は?」
「ユフィ……ちゃんと聞いてよ。酷いと思わない?」
「えっ?」
つまり目の前の女は、ちょっと旦那さんに趣味が違う店に案内されただけで世界が終わりそうな表情で決して近くはない距離をわざわざ馬車でやってきて、10年来の親友に愚痴っていると、そういうことでしょうか?
そんな可愛らしい不満が許されるなら、私が『騎士にも文官にも神官にもなれねぇよ! ボケェ!!』って、旦那様の頭に必殺の魔導キックを叩きこんでも怒られないですよね?
ね?
「あぁ~はっはっはっは。ウケる。自分の家の不正を得意顔で暴いたと思ったら、自分が入れ込んでいた女の主家を攻撃してしまってその女が神殿行きとか、なんてドミノなの??? あはははははは」
「……」
どれだけ荒唐無稽なことを言っているかを思い知らせるために旦那様の話をいくつか披露したら笑い転げやがりましたよこの女……。
もう大人になってしまった私たちには学生の頃の恥じらいなどなく、ルード君には見せられない痴態ですわね。
そして今日も旦那様は帰ってこないし、彼女には客間を使って一泊してもらった。
旦那様に仲裁を頼むことは諦めてくれた……というか、さんざん笑ってすっきりしたらしく、王都に散財しに行くのもやめて自領へ帰って行きました。
きっと、多少好みを忘れているくらい、たいしたことはないと気付いたのでしょうね。というか、そもそも肉料理の評価はどうなの?
それが凄く素敵なお店だったとしたら、ちょっとくらい旦那さんに合わせなさいよ。
私はそんなことを思ったものの、友人たちが上手く仲直りできるように、こっそりと実はメリーヌが大好きだった貴族らしくないパスタのレシピをチェレーニ子爵邸の料理長に届けておくのだった。
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