直島
市島色葉
直島
枇杷の葉のごとく扉をゆるやかに閉ぢてゆく声、こゑのない顔
行くときの船は眠りに足りなくてもうすこしの体温だと思ふ
隣人愛としてのランタナとふたたび歩いてゆけば然も色彩は
日光が忘れたころの
深夜の二時にむかうの岸が輝いて無いやうに在るパヴィリオンの無
僕たちは孤独どうしだ。寝室にジェームズ・タレルのアクアチントを
炭酸を透かした瓶の重たさをもう片方の手に揺らしつつ
いつ噓にされてもかまはない黙の、夜どほし船を待つてゐよう、と
諸々の機能美とかけ離れたるコンクリートが空をつき刺し
空を切りとる枠により人々は初めて空を見上げてしまふ
体には期限があつて雨傘をひらいたままに地面へ落とす
睡蓮の池よ あまつさへ沓を脱いで、僕は、真昼間
ライターを棄てる手段もわからずにそれを記憶と呼べるだらうか
ポリゴナム 寛解により失つたものなどもはや見当たらないと
コートの赤をあなたに着せる。貸与には二種類あつて心のはうを
人間の爪にむかれた無花果をわづかに怖がりながら食む
雨の降る窓辺のやうな窓だつた。老いも愛せるほどの心地の
気に入りの服だからこそ思ひ出の土や草木によごしてしまへ
まだ眠いあなたは大きな恐竜の卵のやうに目を瞑る。割らない
錆びついた灯火の先の桟橋で波の泡立つ音に揺られて
直島 市島色葉 @irohashijima
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