魔女ベルティエ(1)

 「――で、何で最初にアタシのウチ来るの? おかしいでしょ!? そういう理由なら普通バトウのとこでしょ!? 普通まず治療院連れてくでしょ普通!?」


 全身、赤。ヨシュアは彼女を見た時、そう思った。二人を怒鳴り付ける彼女は身に付けた帽子も服も携えたステッキも靴も、そして引いた口紅すら血のように真っ赤だった。彼女はその唾の広い帽子を揺らし、尚も怒りが収まらないようで、その手に持ったステッキでアマノの脛を思いきり叩いた。


 「いってェ!! 何すんだよ!?」


 「何すんだよじゃないよ!! 久しぶりに来たと思ったら生臭い子連れて来て『飯食わせろ!!』だぁ? アンタ舐めてんの!?」


 ギャーギャーと騒ぎ始め、ついには取っ組み合いを始めた二人を、椅子に座ったまま眺めているヨシュアは、


 (本当に”魔女”みたいな格好をしている人って異世界にはいるんだ......)


 と不思議な嬉しさを感じていた。そしてその彼の前のテーブルにはパンと暖かいお茶。先ほど彼女が準備してくれたモノだ。


 彼女の名前はベルティエ。アマノが意気揚々と「俺のダチなんだ!」とヨシュアを引き連れて訪問したのは彼女の雑貨屋であった。


 「んだよッ! お前より先に他のヤツに見せに行ったり会いに行ったりすると不機嫌になんだろうが!!」


 「そんな事無い!! アタシは普通の、常識の話をしてんだよ!! もう45にもなって何でそんな事も分かんないんだよ!!」


 「お前だってもう――いでででででででで!? 耳を爪で捻るな!!」


 堪えきれなくなったアマノはベルティエの腕を掻い潜り、跳び、テーブルから棚の上へと猫のように移動した。


 「テーブルを土足で登るんじゃないよ! て言うか人の店で暴れんな!! アンタは――あ、お茶のお代わりはそこのポットから淹れてねっ」


 不意に話しかけられたヨシュアは頭をブンブンと振る、極力関わらないようにしたいようだ。


 「店っつっても誰も来ない一日平均収入2000円の零細雑貨屋じゃねェか!! ってそんな事より、お前、ベル、ちょっと冷静になってヨシュア見てみ?」


 ハァ? と眉間にシワを寄せるベルティエは、胸元から小さな鼻眼鏡を取り出すと、


 「話をすり替えようたってそうは問屋が......って――――――え?」

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