ウィーンの雪

さるすべり

ウィーンの雪

コーヒーの苦味がすっと溶けていくあなたの話すドイツ語が好き


ねえ先生、手を握らせて、ウィーンの最後の冬はあたたかかった


親称で呼ばせてもらうドイツ語をぼくに教える先生だけど


目の前に見える国立歌劇場よりもあなたの声が聴きたい


落ちつけと騒ぐこころを諭してるウィーンの雪がしんしんと降る


地下鉄に乗って会いにいく時間頭のなかはウィンナーワルツ


二人きり それでもぼくは恋人の楽器じゃなくてキスはできない


モーツァルトのピアノソナタを弾きながらあなたの指が明るく笑う


もし二人出会った季節が違ったらどんな色彩だったのでしょう


ほんとうはもっと一緒にいたかった帰国の鐘が鳴り響くとき


別れぎわクリムトの絵のように抱く いや、現実はそうじゃなかった


触れあった男女二人のほっぺたは友達同士の別れのかたち


もう二度と会えない、そしてこの恋は静かな雪に埋もれるだろう


雪道についた足跡シューベルトの歌曲のような悲しみだった


なにひとつ残せないままウィーンからあなたの前から去っていくのか


離陸する飛行機のなか、さよならと口にしたとき消えた音楽


年月がすべてを包みこんでいくオペラのような情熱さえも


あれは夢だったのかもねウィーンであなたの肌に触れた瞬間


きっともう結婚してる 思い出が桜とともに、ああ落ちてくる


ふるさとの桜の花を眺めつつ呟いてみる“Ich liebe dich.”

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ウィーンの雪 さるすべり @sarusuberi2024

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