第10話 上等だこらぁ
◇7:10
「昨日は色々すみませんでした...」と、川上さんに朝一番で謝罪をされる。
「いやいや、別に大丈夫よ。てか、ソファで寝ちゃってたけど体痛くなかった?」
「はい。大丈夫です。それじゃあ、私はこれで」と、そそくさと帰っていくのだった。
「駅まで送って行こうか?」
「いえいえ、大丈夫です」と、少し頭を抑えながら帰っていくのだった。
そうして、玄関からリビングに戻ると「...悠人さん。気をつけてくださいね?」と、葵ちゃんに警告される。
「ん?何が?」
「あの人からは非常に泥棒猫な匂いがします」
「...いや、泥棒猫な匂いって...。そんなことはないと思うが。でも、ごめん。恋人として気分の良いものではなかったのは分かる。気をつけるよ」
「是非そうしてください。ということで...まずは私にキスをしてください...」
「...おう」
そうして、キスをするのだった。
◇
「おい、葵はどこ行ったんだ?」と、暗い部屋でタバコを吹かしながら男は呟く。
「知らなーい。そういえばしばらく姿見てないねー。まぁ、そのうち帰ってくるでしょ。あいつに居場所なんてないんだから」
「おいおい、ひでー母親だな」
「私がいい母親に見えた?いい女は大抵母親としてはサイテーなもんよ」
◇翌日のお昼
「お前、俺が川上ちゃんにアプローチしてんのに全然サポートしてくれなかったよなぁ?」
「...いや、あれはそもそも脈なしだろ」
「いやいや!まだまだ一発逆転があるから!」
「...まぁ、応援はするけどよ。一応、川上さんの上司としてはあいつのこともだな...「へぇ?お前が他人の心配してんだ?」と言いながら俺の肩に腕を回す。
「...
「んだぁ?その反応は?」と言いながら我が物顔で偉そうに俺の隣を陣取る。
「いえ、別に」
「お前、最近やけに小綺麗になったよな?もしかして女とか出来たのか?」
「出来てません」
「嘘つくなよー。俺が何も知らねーとか思ってんのか?」
「...よく分からないです」
「ふーん?まぁ、それならいいや。でも、女がいないなら残業しても問題ないよな?若松のハゲの仕事お前がやっとけ」
「...」
この篠田という男は最低であった。
パワハラセクハラモラハラ上等、気に入らないことがあれば、人にものに当たる人間だった。
しかしながら、その身勝手で裁かれることはない。
簡単な理由だ。
こいつが社長の親戚だったからだ。
それだけでなく営業の成績は周りと一線を画すほどであり、それに関しては文句をつけられないのもまた不愉快な要因の一つだった。
そして、この篠田という男はどういうわけか場所の違う俺にやけに絡んでくるのだった。
「あと言い忘れてた。お前の部下の川上玲...。あれは俺がもらうことにした」
「...どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ。俺の手となり足となり、欲の捌け口になってもらうってことだよ」
俺がこの会社に残っているのは、いつか復讐してやろうとそう思っていたからもしれない。
けど、今は失いたくない存在がいる。
だからこそ、俺は今決断を迫られていた。
「...川上は俺の部下です」と、初めて目を見ながらそう呟いた。
「ぁ?お前、誰に口聞いてんの?」
「篠田先輩ですよ」
「...へぇ。お前の心はとっくに折れてると思ったけど。そうかそうか。分かった。川上には手を出さない。その代わり、お前のこと死ぬほどこき使ってやるよ」
「...やってみろ、篠田」
これは俺が新入社員だった頃の話である。
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