第20話 夢を運ぶ列車

アムトラックに乗って、ニューヨークからカリフォルニアに行くのには、シカゴを経由して、何通りかの行き方がある。どこを通っても約60時間前後掛かり、おおよそ2泊3日くらいの旅になる。まして、途中下車しながらであれば、尚更時間は必要だが、学生だからこそ長期の休みを利用して旅に出ることができる。

 「ジェイムス、私ねロッキー山脈が見たい。列車からの眺めも良いだろうけど、実際最寄り駅からレンタカーで近くまで行ってみたいわ。」と彩が言う。マリーもそれに同調する感じで「私も見てみたい。」と言いう女子2人の意見で、シカゴ発の『カリフォルニア・ゼファー号』と言う列車に乗る事になった。すると、ロバートが「それなら、デンバー駅で降りてレンタカーを借りよう。遅くなったら何処かホテルに宿泊だ。そして翌日の列車に乗り、今度はソルトレイクに行くなんて言うのはどうだい?イェローストーンもあるし。」と言ってきた。それにはジェイムスも賛成して、大まかな予定は立った。

「予定は大まかで良いの。行った先で気に入った場所があったら2、3日滞在しても良いと思ってる。」と彩が言う。「そうだな、俺たちには時間はある。できるだけ多くのアメリカを2人に見せたいと思っている。」とジェイムスも言う。マリーも「沢山の思い出を作りたいわ。」と賛成意見だ。「とにかく、4人で楽しい時間を沢山作ろう。」とロバートも同意見だった。

 かくして、4人の意見は揃った。後は実行するのみ。出来るだけ荷物は少なくしてバックパッキングをする。足りないものは基本、現地調達といった具合で、話し合いは終わった。

 年の瀬も押し迫った12月のある日、4人はニューヨークのペンステーションと言う駅にいた。ここからアムトラック乗車する為だ。学生の貧乏旅行なので、一番安い座席を予約しようと考えて居たが、やはり、個室を予約する事にした。ルーメットと呼ばれるその個室では、2人で使うには少々狭いが、それ以上の贅沢も難しいのでその個室を2部屋予約し、彩とマリー、ジェイムスとロバートで別れて乗車する事にした。一旦ニューヨークからシカゴに行き、その後、サンフランシスコ行きの便に乗り換える。食事なども簡単なものは列車内で手に入れられるが、長旅になるため、節約も兼ねて列車に乗る前に2日分の食事に相当する量を買い込んだ。

 乗車時間が近づき、ホームの方へ歩いていくと、長い銀色の車体がそこにあり、係員に案内されなければ自分が列車のどこに乗ったら良いかさえ分からなかった。

やっとの思いで、列車の乗った4人は荷物を下ろして落ち着いたが、程なくして列車がゆっくりと動き出し、旅の始まりを告げる。動き出した列車に感動と不安が入り混じりテンションが上がっている。隣の個室のジェイムスとロバートがやってきたが、やはり顔が上気していた。

 翌日、シカゴに到着したのは午前10少し前だった。乗り換える列車のカリフォルニアゼファー号は14時少し前なので、待っている間に昼食を食べ、駅の待合室でダラダラ過ごし、列車到着の20分くらい前に搭乗の案内をされた。待って居た列車に乗り込み、それぞれの部屋に荷物を置き、窓の外を見るとシカゴの摩天楼が目に入って来た。彩は、車窓から窓ガラス越しにその風景の写真を撮った。その後列車は、大平原の中を疾走している。この辺りは、季節になるとトウモロコシ畑になるらしいが、今は、枯れた色の平原が続くばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る