魔法少女の夢日記
タブ崎
第一章 星空とトリックスター
プロローグ:鼻歌行進曲
"リジェクター"。それは守護神より賜った"魔法の力"を持つ者。
誰からも認識されず、そして本人らも誰かに正体を明かす事は決して無い。人知れず世界の危機を跳ね除ける戦士である。
と言ってもその正体は特別な出自を持たないただの女学生。特別な力を宿しつつも、戦いが無い時間はごく普通の日常を生きる人間である。
「ねえ! そろそろ私たちのチーム名決めてみない?」
透き通る陽光が降り注ぐアスファルトの上でスカートを翻した少女、
何気ない日常を象徴するかのような放課後という時間の中、それぞれ別の学校に通っているはずの四人は今日も足並みを揃えて"いつもの場所"へと向かっていた。
「チーム名かあ…… 決めちゃいますか…… ついに……」
楽しそうな陽菜に対し、気怠そうな様子でありながらも乗り気な
更に後方を歩く二人はその様子を見ながら極力発言をしないように気配をひそめていた。ネーミングのセンスが無い事を自覚していたのである。
しかし、そんな二人の心の内を知る由もない陽菜と深悠は笑顔で質問を投げかけた。
「ね、
「え、うーん…… 私は…… まずは皆の案を聞いてみたい、かな?」
「おおう、華麗に躱すね。じゃあ晃っち。何か案無い? 音楽用語とか詳しいでしょ」
「詳しいでしょって言われてもなあ。こういうのは言い出しっぺが最初に案を出すもんだろ、まずは陽菜が考えてみろよ」
「ええー?」
すれ違う人々を気にも留めず、自分達の世界に入り込んだ少女達は定めたテーマを基に雑談の輪を広げて行く。
「ブルーミングハート…… まって、今の無し」
「私は嫌いじゃないですけど」
「いや案を出した本人が照れるような名前はダメっしょ」
「そもそもそんなに可愛らしい感じじゃなくないか? 私達って」
「どういう意味?」
「毎回毎回泥臭い激闘を繰り広げてるだろって意味だよ。もっと厳つい方がお似合いだろ。例えば──」
その後も代わる代わる案を出し続け、普段であればお喋りに一区切りつく程度の時間が経過しても今日の雑談は終わらない。
やがて目的地である公園に辿り着いた時、四人は案を出し切って飽き始めていた。
「なんというか、どんな言葉を使ってもいまいち"私達感"が出ないね」
「名前負けしてるか緊張感が無いかの二極ですよねえ」
「元々纏りなんて無いようなグループだから尚更難しいな」
「あ! じゃあさ、こんなのはどう?」
『続きは後日』なんて言葉を吐こうとした三人へと陽菜が呼びかける。
大して期待せずに視線を向けた彼女たちに向けて陽菜は得意げに自らの考えを披露した。
「私達四人の、
「お、ここにきてそれっぽい案が出ましたね」
「ミント、マーチ、ハルカ、グリムだから……」
「ミマハグ、マグミハ…… グハミマ…… 良くなる気がしないんだが」
メモ帳に組み合わせを一通り書き起こした晃がこめかみを掻く。その手元を覗き込んだ三人のうち結花がブツブツと独り言を漏らし始めた。
「ハ、ミ、グ、マ…… ん、ミントさんから二文字取ると"ハミング"ができますね」
「お! ハミング! 良い!」
結花の言葉に目を輝かせた陽菜が感激した表情で手を鳴らす。しかしその隣で深悠は眉間に皺を寄せた。
「でもそうすると"マ"が余るよね。どうすんのコレ」
「じゃあもうマーチはそのまんま使って"ハミングマーチ"にするのはどうでしょう」
「ハミングマーチ! 鼻歌の行進曲って事だね、良いと思う!」
「名前が丸々入ってるってのはちょっと恥ずかしい気もするが……」
唐突に生まれた第一候補を書き留めた晃が唸る。同じく唸った結花は、それでも頷きながら晃の瞳を見つめた。
「でももうこれ以上の案は出てこない気がします」
「確かに。もうこれでいいか」
"ハミングマーチ"を丸で囲い、手帳を閉じる。すると丁度良く守護神からの念話が届いた。
『みんな、集まってくれてありがとう。早速で悪いのだけれど、もう少しで侵略者が現れるから用意をお願いね』
「分かりました! よおし、ハミングマーチ、出動!」
「お、気合入ってるね陽菜っち」
木陰の中、魔力の流れが風を起こす。
幻想と現実の狭間に揺れる少女達は今日も戦いに身を投じるのであった。
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