第17話 愛を確かめる
「……リリー」
「はい」
「あの言葉の意味を、聞いてもいいかしら」
「……」
この話題が来ることをリリーはわかっていた。
『少なくとも私は、ユースティシア様を一人の女性として、恋愛対象として、愛しています』
そう言ってしまったのだから、当たり前と言える。当然だ。
家族と平民、主人と従者、女と女。
実ることも、結ばれることもないのに。
今の関係が壊れるのが怖くて、壊れるぐらいなら秘めていようと決めて、けど、口にしてしまった。
「あれは、私の本心です」
後戻りはできない。
なら、嘘はつきたくない。
「申し訳ございませんでした」
「リリー……?」
リリーの謝罪をユースティシアは理解できない。
「私は本来、ユースティシア様のおそばにいていいような人間ではありません」
「そんなこと……」
「あるのです」
リリーははっきりと断言した。
「私情を……恋慕を抱いている時点で、私は従者失格です」
助けてもらって、
全てを与えてもらって、
知識を授かり、
守れるような力を手にし、
――そして、恋心が芽生えた。
「私は、デイビッド様に依存していると言いましたが、それは、私も同じことです」
だって、そうではないか。
今のリリーがいるのはユースティシアがいたからだ。ユースティシアがいなければ、リリーはいなかった。
ユースティシアによって、リリーは成り立っている。
「私はユースティシア様に拾われたあの時から、ユースディシア様のものです」
「違うわリリー。あなたはあなたよ」
「いいえ。私は、ユースティシア様のものです。ユースティシア様の一部とも言えます」
リリーに人の感情が生まれたのは、ユースティシアのおかげだ。
植物で例えるならば、それは、種から芽が出たようなもの。肥料がたっぷりの土に植え替えられ、知識と力という名の水をもらい、日の当たる優しい世界で育った。
リリーは、ユースティシアによって育った。ユースティシアによって育った
それが、リリーの考えだ。
「愛しています、ユースティシア様。本当に、ごめんなさい」
結ばれることなど、ない。
できるとしたら、精一杯伸ばした
リリーは、傀儡でいるべきなのだ。
感情のない、操り人形のように。
ずっと、自分を押し殺して……。
「リリー」
それは、白い百合の名前。
何年も呼ばれ続けた、リリーの大切なものの一つ。
「わたくしは、デイビッド様を好いています」
「はい」
知っていた。わかっていた。
だから、リリーの恋は決して叶わない。
「でもね、リリー。多分、ううん。現実として、デイビッド様はわたくしのことを愛していないわ」
あれは、愛などと呼べるものではない。
深い依存と執着でできたなにかだ。
その正体を知ろうとは思わない。思えない。
「薄々わかっていたの。でも、最近になって、確信に変わったわ。デイビッド様は、わたくしを愛してないんだって」
死んでほしい。
リリーは心の底からそう思った。
恵まれているのに、そのことに全く気づいていない。それが当たり前だと思っている。普通だと思っている。
「すごく、悲しかった。でもね、わたくしが泣かずにいられたのはあなたがいたからよ、リリー」
「ユースティシア様……」
「いつもわたくしのそばにいてくれて、ありがとう。リリーがいたから、わたくしはここまで頑張れた」
ユースティシアの隣には、いつもリリーがいた。リリーがいる限り、自分は一人にはならないのだと、そう、思わせてくれた。
「好きよ、リリー」
なんでずっと、気づけなかったのだろう。
ユースティシアはそう後悔している。
どんな時でもそばにいたのは、支えてくれたのは――
「リリー」
一途に尽くしてくれた従者だったのに。
「あなたが好き」
「……でも、それは」
「そうね。昔のわたくしの好きは、家族としての好きね。……でも、今は違うわ。わたくしはリリーを、リリーと同じ意味で愛しているわ」
「! ユースティシア様、私……っ」
「リリーはわたくしのこと、好き?」
「〜〜っ! 当たり前です」
貴女は私の神様なのだから。
「わたくしが貴族でなくても、どんなに醜い姿になっても、あなたはわたくしを愛してくれるの?」
「なにを、そんなこと……私は、あの日私を救ってくださったユースティシア様に、恋をしたのです」
身分も、外見も、関係ない。
ユースティシアだから、リリーは好きになったのだ。
「いつ、どこへでも、ユースティシア様がいる場所に私は行きます。そして、隣で支えます。支えたいのです。ユースティシア様が幸せなら、私は、私は……っ」
「なら、わたくしから離れないで」
「!」
「どんなことがあっても、わたくしを、ひとりにしないで」
「ユースティシア様……」
貴女がいなければ、私は生きられない。
二人は生きるために、互いを必要とし、求めていた。
「絶対にひとりにしないで、リリー」
「隣で支えてもよろしいでしょうか、ユースティシア様」
二人は見つめ合い、微笑み、優しい夜を過ごした。
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