第15話 ネグリジェ選び
「どっちがいい?」
ユースティシアはリリーに二つのネグリジェを出した。どちらも形は同じだ。色違いである。
胸元の大ぶりなフリルが女性らしい曲線的なスタイルを強調している。緻密なレースが何段にも重なってできたスカートはふんわりとしており、さらさらとした生地は着心地が良さそうだ。
上から下へと目を移すにつれて変わるグラデーションのネグリジェは美しい。
一つは海のような翡翠色からアクアマリン、サファイアブルーと濃く深い色に変わっており、もう一つは桜色から桃色、ローズレッドとまるで花が咲き乱れているかのように変わっている。
どちらも可愛らしくリリーには選べない。
だが、リリーはユースティシアのことをよく知っていた。
「……こちらのをお借りしてもよろしいでしょうか」
リリーが選んだのは青いネグリジェだった。
「選んだ理由を聞いてもいい?」
「……ユースティシア様がこちらの色の方を好きだからです」
「! どうしてそう思うの?」
ユースティシアはいつも紫色を基調とした服を着ている。だがそれはユースティシアが紫色を好きだからではない。デイビッドが紫色を好きだからだ。
ユースティシアがデイビッドを好きだった頃、ユースティシアはデイビッドによく思われたくて紫色のドレスを着ていた。それをリリーは知っていた。
そして、ユースティシアが好きなのは桜や桃、薔薇といった色であることをリリーは知っていた。
「いつも、我慢してませんか? 決して紫色が嫌いなわけではなくても、やはり毎日同じような色の服を着るのは飽きてきてしまうと思って……」
「……ふふ」
「ユースティシア様?」
「やっぱりリリーはすごいわ。わたくしのこと、よく見てるのね」
「っ……私はユースティシア様のメイドですから」
謙虚な姿勢を取るのは、そうでもしなければ自分の感情を抑えられないからだ。どんな時でも冷静でいられるよう、リリーは幼少期からポーカーフェイスでいるよう訓練された。
だが、溢れる思いは止まらない。今も、ずっと、抑えている。口に出せたらどれだけ楽になれるだろう。
「じゃあ着替えましょう」
「はい」
リリーはユースディシアの着替えの手伝いをしながら、ふとあることに気がつく。
(……これ、ユースティシア様の前で着替えることになるのでは?)
ユースティシアのドレスを脱がしながらリリーは考える。
(メイド服を脱いで、ネグリジェに着替えるんだよね)
リリーが危惧していること。
それは、自分の下着をユースティシアに見られるということだ。
この込み上げる気持ちは恥ずかしさなのだろうか。ユースティシアの下着はもう何度も着替えの手伝いの際に見ているので慣れてきたが、リリーは違う。
しかも、本来メイドは主人を引き立て支えるために存在する。なのにあろうことか主人と同じ服装で、一つのベッドで、一緒に寝ることになっている。
(…………この状況、非常にまずいのでは?)
ユースティシアのことは好きだ。今回のこの罰は罰ではなくご褒美としか思えない。心の中で喜びを噛み締めているが、客観的に考えれば身分や立場を超えた行動をしていることになる。
(わ、私、どうするべき……?)
罰という名前のご褒美。
主人と対等の関係になりかけている今。
「ありがとう、リリー」
「あっ、い、いえ……」
次はリリーが着替える番だ。
(どっ、どっ、どうしよう……っ!)
「着替えていいわよ、リリー」
「はっ、はい……っ」
いざユースティシアの前で着替えることとなり、謎に緊張と羞恥心に襲われたリリーであった。
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