ASINOURA

 まさに痒いところに手の届くシャンプーマンとは、わたしだよね。


 わたしクラスのシャンプーマンになると、もちろん、掻き残しなんてないよ。


 だって決まった動作をしてるわけだから、掻き残すなんて、あり得ない。


 でも、お客様によってはどうしても、ちょっとここが痒いんだよねぇ……とかありますよね。当然です、人間なんでそりゃ、ありますよ。


 だから美容師さんはみんな、テンプレのセリフを言うんです。


「ほかに、どこかお痒いところは、ないですかぁ?」


 これ……絶対聞かれますよね。わたしクラスのシャンプーマンは、もう聞かないかなぁ……逆にね。


 そう、逆に聞かないパターンなんですよ。


 おい、聞けよ!っと思うでしょ?なんかもう、聞くことも失礼なんじゃないかと思ったりもするんですよ。答える側も面倒くさくないですか?

 

 せっかく癒されて眠りについてるところに、例のセリフ……要ります?


 起こしてしまうし、急に話しかけられて慌てて答えるお客様。


 声を出す準備してなくて「なっ⤴︎無いですぅ⤴︎」って裏声になって恥ずかしそうだし、急に起こされてビクッてなってるのに、ビクッてなってないよぉ的な雰囲気でソワソワしてる時もあるし……必要ないのかなぁ、と思うわけですよ。


 それに、まだわたしが駆け出しのシャンプーマンだった頃。先輩に習った通りにシャンプーするので、言いますよね。


 あのセリフ……可愛い声で(可愛いかったかどうかは、知らん)……「どこかお痒いところとかございませんかぁ〜?」って


 その時は男性のお客様だったんですけど「足の裏かな?」っておっしゃったんです……。


 は?……ギャグ?ギャグだよね?足の裏て……いや、乗りますよ。乗っかりますよ。


 はぁい足の裏ですねぇ、了解でぇす(可愛い声)。じゃあ足の裏を……って頭じゃないんかぁい!って全力で乗っかる、わたし。

 

 ハハハッ、ハハハッ、ハハハハッ……ハハッ……ハッ……いやぁ、お客様と笑い合ったなぁ……と、そんな時もありました。今思えば必死だったんでしょう。

 

 お客様も、爆笑したわたしに大満足。まぁイケおじ風のかただったので、緊張したわたしを、リラックスさせようとしてくれたんだと思います(そう思いたい)。


 おい、せめて背中にしてくれ!足の裏はないわぁ、なんか嫌だわぁ、さすがにちょっと引きましたもんね。


 鉄板なら背中だろぉが!……っと大変失礼しました。咄嗟にノリ・ツッコミが出来たから良かったものを(いや、いいんかい)、今どきの若い子だったら、えらいこっちゃです。

 

 そんな、こんなあって、今では聞いていません。それが原因ってわけではないですけどね、でも、聞くことはないですね。


 皆さんは、美容室でよく聞かれますか?


あの定番のセリフ……その時はこう答えて下さい。


「足の裏」と……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る