100人に一人の逸材

後輩に技術を伝える。


 泡立てる時に、お客様の頭を揺らさないようにね。グラグラしちゃうと気分が悪くなっちゃうから……そうそう、お湯を右手ですくいとって、泡立てて。


 しっかり泡立たないと気持ちよくないよぉ、髪の毛は繊細だからもつれないようにぃ、摩擦を減らすための泡でもあるんだからね。


「違ぁ〜う!右手と左手がバラバラに動くと頭が揺れるだろがぁ!左右のチカラを均等にしろ!


 それが出来なきゃ、左手は添えるだけ!右手だけで泡立てろ!」……ふぅ、ふぅ……余裕のない先輩で申し訳ない……いや、思いが伝わらんのだよ!わたしに!


 わたしにね、情熱がね、伝えわらんのよ。温度差があんのよ。モチベがないのよ。


 はぁ……どうして美容師はみんな、カットにばかり目がいくのか……シャンプーも主役だよ!お客様に接する時間を考えたら同じくらいだよ!


 むしろ、寝顔も見てるから(マジマジと見てはいない)、こっちのほうが近しいまである。


 後輩はね、早くカットがしたいの。みんなそう、同期もそうだよ。ずっと先を見てる、だから、おろそかになる。


 でもわたしは知ってる、シャンプーがすべてに繋がっていること……。


 わたしクラスのシャンプーマンは、頭の形を瞬時にインプットすることが出来る。


 側頭部のハリ、頭頂部の丸み、後頭部の陥没(陥没は言い過ぎ)、これらが分かればカットの際にとても優位に、スピーディに施術を行えるというのに……伝えてはいるが、伝わってはいないのだろう。


 舐められてるのか?……ふと、そんな気がした。わたしは後輩に舐められ、先輩にウザがられているのか?くっ!……なんてこった……こりゃあれだ、社会の板挟みってやつだ。


 かのおお先生が、わたしに言ってくれた。


 あなたは100人に一人の逸材よ!……まいったなぁ〜、妬みか?妬みなのか?みんな、わたしに嫉妬しているのか?


 100人に一人のわたしが羨ましいんだろ?そうだ、そうに違いない!いや、ちょっと待て……中途半端じゃね?1000人に一人で良くね?10年に一人で良くね?……100かよ! 


 どうせならもっとガツンと言ってよ!単位が微妙じゃん!そりゃ、舐められるわ……中途半端にウザがられるわ!

 

 いや、ありがたいよ。ありがたいんだけどね。

 

 シャンプーマンとして、ここまで高みに辿り着くも、こんな状況とは……中間管理職ってツラいっすね(管理職ではない)……教育って難しいっすね。


 こうやって書き綴ってストレス解消しよ。

 

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