ヘッドスパされたことありますか?

シャンプー指名をたくさん頂いている上位「シャンプーマン」のわたしですが、スタイリストの中には怪訝に感じている者もいる。


 わたしクラスになれば、お客様から相談や質問を受けるのです。そう、スタイリスト以上に信頼してくださっているのでしょう、たぶん、おそらく……


 で、それを良く思わないスタイリストは言うよねぇ「お前ってずっとそれでいいの?」……は?どういう意味?


 ずっとシャンプーマンなのかってこと?わたしって邪魔ってこと?嫌味?アンタ支えてんのわたしなんだけど、さっさとスタイリストになれってこと?


 いやぁ、ウザいでしょうねぇ、わたしはアンタよりたしかに技術は無いけど、知識はあるからねぇ。


 お客様もわたしを頼るよねぇ、これがシャンプーマンとして高みに至った者の悩み。


 ドラマでよく見るお医者さんにとってのベテラン看護師長みたいな感じかな?


 スタイリストとお客様に挟まれるわたし、どっちを取るかって?ふふ、当然、お客様……と言いたいところだが……両方……と答えるね。


 うちのスタイリストもわたしにイラついてはいるんでしょうけど、きっと、絶対、感謝もしてるんだよ、たぶん、おそらく……


 はけ口?みたいなもんかな。美容室によってはチームを組んでるから、スタイリストのイライラを受け止めるのも、わたしの仕事ってやつだね。


 まぁもちろん、わたしはシャンプーマンなんで逆らいません。どう対応するか……ふふ、転がせますよ、手のひらでね。


 特に男性のスタイリストは簡単に、え?オンナを使う?いえいえ、わたしにそんな色気はございません。


 じゃあどうするか?簡単なこと。お客様の前でスタイリストの「技術」を褒める。


 それだけ。


 ククク、男性スタイリストは基本的に技術者が多い。だからその「技術」を褒めるだけ。


 そうしたらコロッと機嫌が良くなり、お客様も喜んでくださる。


 簡単、簡単、「⚪︎⚪︎さんのカットって本当に上手なんですよねぇ!⚪︎⚪︎様もとっても似合ってて可愛いですよぉ」……これだけ……たったこれだけですべて解決。もちろん目標のスタイリストに聞こえるように。


 腹黒って思いました?そうなんです。わたしは腹黒女なんです。


 これでお店の空気や相手の態度が変わっていくことを実感するのも好きなんですよ。


 なんか変態っぽいけど快感なんですよ、クク……失礼。


 これで何者にも邪魔されずに癒しを提供出来るうえ、お客様のご質問を気兼ねなくお答え出来る。


「ヘッドスパとシャンプーってどう違うの?」……これ、めちゃくちゃよく聞かれます。ヘッドスパとシャンプー……これは施術的には、ほとんど変わらない。


 何が違うのか、スパ用のオイルを使っているかいないかだけ。


 つまりわたしクラスのシャンプーマンがシャンプーすればそれはもう「ヘッドスパ」と言ってもいいでしょう!は?どういうこと?ってなりますよね。


オイルは頭皮の油分をコントロールして保湿しているだけです。だけって言ったら怒られますね。乾燥によるフケなどを防ぐ効果もあります。香りもいいですしね。


 よって結論言いますよ。わたしクラスのシャンプーマンが毎回シャンプーしてくれているのであれば……保湿以外はシャンプーと同じ……です


 ふふ、ついつい語ってしましたが。営業妨害ですね。そうなんです、上位「シャンプーマン」が行うシャンプーは「ヘッドスパ」に匹敵する……です。


 ん?来られましたかね。わたしを指名してくださるお客様が。メニューは「ヘッドスパ」です。


 わたしはシャンプーマンですのでカットは出来ません。しかし予約表に……わたしの名前の欄にお客様の名前が……載るのですよ!しかもご指名。


 ククク、カットの時は誰も指名されないお客様が、ヘッドスパを指名する。これ、めちゃくちゃ優越感ですよ。


 スタイリストですら心を掴めなかったお客様の心を掴む……ヤバくないですか?ヤバいですよね!あぁ誰か褒めてくれないですか?当然わたしは舞い上がりますよ、有頂天ですよ。


 でも表には出しません、冷静です。


 だからスンッです、スンッ。スンッと平気なふりしてます。わたしには先輩もいる、後輩もいる、カッコつけてスンッと平静を装ってます。


 ご指名だからと言って特別扱いは致しません。いつも通りに全力で施術をさせていただくだけです。


 お店のコンセプトにもよりますが、うちのヘッドスパはシャンプー台を倒す前にオイルをつける。そこであらかじめ頭皮全体をほぐす。


 お客様との距離感、近過ぎず離れ過ぎず……一度お客様に触れると施術が完了するまで指を離してはならない。


 お客様が「ん?終わったの?」と勘違いをさせてはならないから、常に触れていること、動き続けること。


 止めてはならない、止める時は次の施術に入る時だけだ。


 流れるように……川を流れる木の葉のように流すのだ。そう、そういう感じに血流を意識して……わたし自身の息遣いが決してお客様に悟られないように……そう……そうです、そんな感じ。


 ほぐれてきましたね。あとはいつものシャンプーですよ。多少のペースは違っても工程はほぼ変わらない。


 これが「ヘッドスパ」です。


 全ての施術が完了しました。お客様への癒しがわたしの癒し……「あぁ、もうこのまま寝かせてて、私を起こさないで」……ふぅ、最上のお言葉を頂きました。


 何度も言うがシャンプーマン冥利に尽きる





 

 

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