異世界で平和を望む者

クククランダ

第1話 平和を享受する


「あぁ、今日も平和だ」


 俺は草っ原に寝っ転がって呟く。外は晴れており。良い風が吹いて眠気を誘う。俺は異世界に転生してから、こんな日常をずっと続けている。


 チートを貰って無双したりとか、何かでかいことをして成り上がりたいなどは微塵も思わない。ただ、こうやって穏やかな日々を送ることができればそれでいい。


「おーい! ギルもそろそろ仕事をするぞー」


 俺がうとうとしていると若そうな癖っ毛の黒髪の男性が手を振って声をかけてきた。


「分かったー。今行くー」


 俺は起き上がってその男の元へ歩いて行く。


「今日も畑仕事だ。最近は作物を食い荒らす動物たちも減ったし今年はいっぱい収穫できそうだぞ」


「へぇー。ならまた隣近所の人と色々交換しないとね」


 俺と男は並んで歩く。男の背丈は俺より10センチ程高い。一応俺も170ちょいはあるんだけどな。


「だなー。最近、近くのばあちゃんが腰痛めたらしくてな? 何か元気になりそうな野菜を持って行ってやりたいんだ」


「それなら俺が後で持っていくよ」


「本当か? 流石は俺の息子だ!」


 そう言って俺の頭をがしがしと撫でる男。さっき言ったようにこの男は俺の父さんだ、名前はレントと言う。


「じゃあ、今日も畑仕事をして帰るか!」


「そうだね。さっさと帰らないとまた母さんが心配するし」


 俺と父さんは家に置いてあったクワを持って畑へと向かう。どちらも畑仕事をするために長めの服と長靴を着けていた。


「うん、異常はないな!」


「こっちも異常なかったよ」


 俺は畑に異常がないか調べ終わったので父さんの所へと向かった。俺の村は田舎なので畑はそれなりにでかい。


「良し! なら帰るか!」


 そうして俺と父さんはクワを持って家へ帰る。空を見るともう夕暮れに近かった。俺と父さんは畑には大体4時間くらい居たことになる。


「「ただいまー」」


「あら? 今日は随分と遅かったのね」


 ドアを開けると茶髪の女の人が台所に立っていた。この人は俺の母親のイーリス、こんな若くても俺の母親なのだ。


「まぁな。そろそろ収穫も近いし、ギルと2人で念入りに見てきたんだ」


「もうそんな時期なのね。なんだか時間が過ぎるのが早く感じるわー」


 母さんはやだやだといった表情をしながら料理を作って行く。もう手慣れているからか手元はあまり見ていないように見える。


「もうそろそろご飯できるから早くお風呂入って来なさい」


「分かった。先にギルが入って良いぞ」


「そう? なら先に入らせてもらうよ」


 俺は先に風呂を頂くことにした。俺も父さんも畑仕事をしたせいで結構汚れている。だからいつもご飯の前に風呂に入るのだ。


「ふぅ〜。今日も頑張ったなー」


 俺は湯船につかりながら全身の力を抜く。仕事が終わった後のこの風呂が最高に気持ち良いのだ。風呂は両親が好きだったので無理をして買ったらしい。本当に良い判断だと思う。


「これで明日も頑張れるな」


 俺は風呂場についている小さな窓を開ける。するとその窓からは綺麗な星が見えた。中々に贅沢だ。


「父さん、出たよ」


「お、なら次は俺が入るか」


 父さんは椅子から立ち上がり風呂場へと向かう。俺はテーブルに突っ伏してだらけることにする。


「ほーら。そんなとかに顔置いてたらお料理おけないでしょ」


「ああ、ごめんごめん」


 母さんがお料理を持って近づいて来るのを見て俺はすぐに顔をどけた。


「俺も手伝うよ。どうせやることもないし」


「そう? ならこれを運んでくれる?」


「分かった」


 俺は母さんから皿を受け取ってそれを机に並べていく。そして完成していく料理を並べていく内に父さんが風呂から出てきた。


「ふいー。良い湯だった」


「もうちょっとだからお父さんは椅子に座って待っててちょうだい」


「そうか? ならお言葉に甘えて」


 父さんは母さんに言われた通りに椅子に座って待っている。俺と母さんも最後の皿を机に運びそのまま椅子に座る。


「じゃあ食べるか」


 そうして俺たちは食べ始める。あるのは自分の家で採れた野菜や貰った肉など様々だ。


「うん、どれも美味しいよ、母さん」


「なら良かったわー。父さんはどう? お口に合うかしら?」


「ああ、どれも美味しい。やっぱり母さんの料理は安心するな」


 父さんはスープに口をつけながら母さんに笑いかける。どちらも、顔が良いから絵になるな。


「そう言えばギル」


「ん? ……どうしたの?」


 俺は口にあった物を飲み込んで話かけて来た父さんの方を向く。


「お前は、この村から出て行きたいとか思わないのか? 他の若い連中は皆んな帝国の方へ行ったり冒険者になるとか言ってたのに」


「…………」


 帝国、冒険者か。確かに村にいた俺と同い年くらいの連中はみんな出て行った。それは冒険者になって英雄になりたいだとか、帝国に行って有名になるとかそんな理由だった。


 本当にくだらない。俺からすれば心底どうでも良い。


「俺は興味ないよ。それに知ってるだろ? 父さんも俺の体質は」


 俺は前世の影響かこの世界の人とは少しだけ違うらしい。でも今の生活をする上ではそこまで気になる物でもない。


 すると父さんは神妙な顔つきで俺を見る。


「そうか。……でもお前は本当に変わってるな、こんな村にずっと居たいなんて」


「……うーん。そのことなんだけど少し違うんだ」


「違う?……」


 父さんは首を傾げる。


「そう。俺はこの村に居たいというより、父さんと母さんと居たいだけなんだ。こうやって仕事をしてご飯を食べて平和に暮らせればそれで良い」


 これは俺の本音だ。ただ、穏やかで平和な暮らしが出来るのであれば場所なんかどこだって良い。


「そうか。やっぱりお前は優しい子だ」


「そうね。あなたはとても優しい子よ」


 2人は俺に優しく微笑みかけた後、俺たちはご飯を食べ進めていく。こんな毎日が俺にとっては幸せだ。

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