君は最高の……。


「…………あの、ご本人に気づかれないからといって、笑い過ぎではないですか?」


少女は自分の主人を見上げる。


物陰に2人してしゃがみ込み、

先程の彼女の一部始終を見届けていたのだが、


少女の主人は

彼女の何かが笑いのツボに入ってしまったらしい。


彼女がその場を去ったのをいいことに、

肩を震わせて笑っている。


「いや、笑い事じゃないですから! 本来は一大事ですから! というか、下手したら、あの方の命までも危うくなるかもしれないんですよ! ……って聞いてます?」


少女が力説するも、

青年は息を忘れるくらい笑い転げている。


いや、本当に笑い事ではない。


先程、彼女がとある植物に投げてよこしたのは、決して亡くしてはならないモノなのだから。


それは、今や少女の手の内にある。


「まぁ、事前に分かっていたから、魔法で何とかできましたけど。あのままだったら、どうされるおつもりだったのですか?」


段々と腹が立ってきた少女に、

ようやく笑いが収まった青年が涙を手でこすりながら答える。


「それだからこその、ルドの月読だろう? まぁ、本当にアレを投げるのかは半信半疑だったけど」


青年は笑いがぶり返してきたのか、

口元の緩みを手の甲で隠す。


「……うん。やっぱり、僕には彼女しかいないって、より確信が持てたよ」


「先程の方も中々でしたけど、貴方様も相当ですよね」


少女はほうっとため息をつく。


これは呆れをはらんだモノではない。

むしろ、安堵にも近いのかもしれない。


これまでの彼を知っているからこそ、

この変化が希望であってほしいと思えるのだ。


「上手くいくといいですね」


少女がそうつぶやく。


「まぁ、上手くいかせる・・・・しかないよ」


青年は彼女が消えた方向に目を凝らす。


「絶対に連れて帰るから」


それは決意。


「だって、君は最高の道標だから」


新月の夜に、

ターバンから溢れた銀髪がふわりと光を帯びた気がした。

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